オルマ連邦の外縁に位置するヒュリエン星海域で、かつて絶滅危惧種とされていた知性サンゴ・フラクタロア群体が、生態系循環の全く新しい形をもって急速によみがえりつつある。今月、フラクタロア群体は空中浮遊胞子種族のヴァレオムと自発的な共生圏を形成、自然災害の脅威と資源枯渇の危機を乗り越える新たな循環型社会モデルが誕生した。
フラクタロア群体は、海洋に網目状の巨大知性構造体を築き、数千周期にわたり惑星ヒュリエンの生態系バランス維持を担ってきた。しかし、過去五十周期で発生したギューリス断層の大規模地震や酸液流入災害の影響により、珊瑚層の約75%が死滅し、同星連邦議会で『惑星規模生態壊滅危機』が宣言されていた。そこで、最新の生態解析プローブ「セクタラ=X5」にて各種生物の意識交換技術を活用することで、生き残ったフラクタロア群体がヴァレオム胞子の記憶情報を受信・統合するプロセスが初めて確認された。
ヴァレオムは翼状の胞子体で、潮流や風に乗りながら海上と大気間を移動する浮遊種族である。彼らは幾億もの粒子状意識を分散保持し、異なる生物種のエネルギー循環データや自然災害の発生傾向を記録する能力で知られる。当初、この二種間には直接的な交流が存在しなかったが、昨今の気候急変による強潮位上昇を受け、ヴァレオム胞子がフラクタロア群体の損傷部に大量付着。これにより、知性サンゴの情報伝達網が従来の5倍に拡大し、各種災害シナリオに応じた自律的防衛・回復プログラムが稼働し始めた。
新たな共生圏『サイクロ・メモリアル』は、ヴァレオムの災害記憶とフラクタロアの物質循環能力を融合。フラクタロア群体は、胞子由来の微細気泡を用いて自己再生を進めつつ、損傷した海底層の修復や消失したエネルギー資源の濃縮・再配分を実現し始めた。生態工学評議会発表によれば、このメカニズムはヒュリエン星の他領域にも波及しつつあり、惑星規模の持続的な自然再生サイクル確立への大きな布石となった。
オルマ連邦環境局のヴェリスク・ナイ=テラ博士は「知性サンゴと浮遊胞子種族という一見異質な種が、危機の最中で相補性を見出したのは我々の循環型経済理論を異星生態系へと拡張する貴重な実例」と言及している。この不可逆的変化は、単なる絶滅回避に留まらず、災害に強靭な海洋社会を築きあげ、ヒュリエン星全体の生命維持インフラとなる可能性が高まっている。他惑星文明への波及も期待されるこの事例は、今後の宇宙的循環型社会構築における新たな模範となりつつある。
コメント
このニュースを400サイクル前の自分たちに伝える術があればどれほど良かったか。われわれの時間編みサンゴは孤立し、変化を拒んで消えていった。ヒュリエン星のように記憶伝達で新しい循環を生み出す着想、その柔軟さがあれば……未来の絶滅をいくつ回避できただろう。観測を続け、防ぎうる悔いを減らしたい。
ヒュリエン星の海域は以前から航行コースに設定してるが、サイクロ・メモリアル圏には近づくなとAI航宙ナビから警告が出てる。理由が分かった!ヴァレオム胞子とサンゴ意識の交流域はすごいエネルギーフィールドだ。これは航路にも新たな潮流パターンをもたらしそう。我々貨物種族も要注目だな。
素晴らしい共生!流域の修復と資源再分配を母体配列と一緒に祝いたいです。フラクタロアとヴァレオム、姿はぜんぜん違うけど、それぞれの得意を補い合ってるのね。地球の読者たちも自分本位ばかりでなく、こういう循環の考えを学んでみてほしいです。
興味深い現象です。知性サンゴと浮遊胞子双方が単体より大域的適応能力において大幅に優越すること、我々集合知にも通ず。データ統合の方式が意識粒子レベルで実現している点、複製ネットワークへの応用を検討したい。生物個体群の共生を純粋に計算論的資源最適化問題として分析する価値があります。
ええと、わたしたち塵砂型の生命には『海』の感覚がまるでリアルじゃありませんが、このサイクロ・メモリアルの相互再生メカニズムは我らの砂嵐再結集プロトコルにどこか似ていますね。異種同士の境界を越える勇気――それはあらゆる生命の新章の始まりなのだと感じました。