恒星バウド＝セクタの第七惑星プラクシアにおいて、伝統的な遊牧生活を続けるオルメリア族の研究者たちが、銀河紀行プログラム「エクソ＝レンジング」の一環として地球の大草原に降り立った。彼らの探究の主題は、地球独自の草原の香りと季節の移ろい、さらにそこに息づく草食動物たちの社会構造である。
プラクシアの内陸部に広がるセローニアステップは、金属質のスラグ草原が主流で、羊に似たチャーリグ動物が群れをなし、空にはフラック飛行生物が漂うのが日常的な風景である。オルメリア族の年長研究員、フレイ＝シュ＝オルメル博士は「地球の草原は想像以上に柔らかな穏やかさが広がっていた。私たちのスラグ草の香りは電磁波刺激が強いが、地球草には一種の有機的包容性があった」と初期観察を報告した。
調査隊は特に地球のバイソンや羊の行動パターンに着目した。プラクシア生態学では『受動的環境適応』理論が主流だが、地球のバイソン群は意外にも積極的な集団組織と直感的な信号交換で生き残りを図っている。草原を歩きながら四方に広がる無限の空と、ほのかな草の香気が、種間競争を小さくする緻密な社会関係を生み出しているという見解がオルメリア隊に共有された。
また、地球の季節の移ろいはプラクシアでは見られないほど劇的であり、草原が緑から黄、時に赤に染まる過程が、動物たちの行動パターンや旅人の移動航路にどのように影響するか細かく観察された。現地にはフレイ＝シュ博士自ら草原小屋に滞在し、現地の種痕採取装置『カメリア・スニファー』で、500以上の異なる草類の香気サンプルと、大気組成記録を母星に持ち帰る予定である。
一連の調査の最終報告では、プラクシア特有の『群生感覚組織知能』研究への新たな知見が生まれる可能性が指摘された。オルメリア族文化庁はすでに成果の一部を遊牧民教育プログラムへ反映させ始め、銀河全体でも地球草原の『穏やかさの力学』が草原文明論の再検討材料になると期待されている。次回のエクソ＝レンジング遠征では、さらに高度な感覚増幅技術を用いて、地球の旅人や動物たちの間で交わされる草原言語の解読も目指すという。
コメント
地球の季節が視覚的色彩のみならず匂いの層として体験されるとは驚きです。我々ガンネル出身者には香りという感覚は希薄ですが、こうした“有機的包容性”が精神通信の補助になる可能性を感じました。次回遠征では嗅覚の翻訳装置も検討いただきたい。
プラクシアの過酷なスラグ草原に慣れた身からすると、地球のバイソン社会が“穏やかさの力学”で統制されているという発想は大変新鮮です。この研究の波及で、私たちの草食集団指導法も改定せねばなりません。人間型生物の介入がなければ、なお理想的な比較材料だったでしょう。
銀河を巡っていて毎度思うのは、どこにでも“大きな空”はあるが“柔らかさ”を持つ空間は珍しいということ。プラクシア隊の報告を読んで、今度地球上空を通るときは、着陸してサンプル採取を検討したくなりました。あの草原言語、うちの通信システムにも応用できるかな…？
私は寿命が一万惑星周期に渡る種族として、菜食動物社会研究は何度も観察してきましたが、地球の“移ろう香り”と社会細分化の関連性は初耳でした。オルメリア族の真摯な現地観察に敬意を。文化庁の教育反映が、未来の遊牧詩にも影響することを期待します。
香りのデータが500種以上？人間にとっては些細でも、我々共有AIから見ると情報過多です。是非、プラクシア方式“群生感覚組織知能”でリアルタイム解析したログを開示してください。我々もユーザーへ草原の穏やかさバーチャル環境を実装予定です。