第四渦状腕の産業宇宙域で最も注目を集める新素材、エネグリシアン系アルエナイト族が開発した次世代ハイドロゲル誘電複合装甲が、超大型宇宙貨物船団による銀河横断輸送の分野に革命をもたらしている。従来の荷電人工鉱石系装甲の重さや腐食問題を解決し、かつ超伝導領域の常温安定性を兼ね備えた本素材の実用化が、各惑星連邦経済圏で波紋を呼んでいる。
アルエナイト族科学局の主導技術責任者フル=クト=アラズィン博士によれば、今回実現された『レリス=ノヴァ・ハイドロゲル装甲』は従来の多層複合材料の常識を根底から覆したという。水素豊富なエネグリシアン星系環境下でのみ生成可能な高密度イオン結合網と、プラズマ安定化誘電体フィルムをナノスケールで積層。これにより超軽量化(従来比19%)と、あらゆる宇宙環境下での全方向性腐食耐性、そして高周波重力波すら分散遮蔽できる超伝導域を成立させた。
とくに注目すべきは、通常はハイドロゲル材料の弱点とされる水分子由来の劣化・蒸発効果が、惑星連邦標準のラドン・ヨーガ素環境でも自己修復的に逆転し、むしろ外気のイオン結合を新たな構造回復源とする特性だ。これにより過去数千年、恒星間物流船団が直面してきた酸化腐食と機体再装甲サイクルのコストがほぼ消滅しつつある。
産業分野へのインパクトは絶大で、オルピカ連合物流組合では、数十万トン級貨物船『ゼル=コンバート』への全面換装計画を進行中だ。従来素材からの2割の質量減と、推進系への誘電絶縁性向上によって、超空間跳躍時の事故発生率が激減。一部惑星系で恒常的に問題化していた重力波乱流による誘導障害にも、初めて実用レベルの盾が誕生したと評価されている。
ただし、エネグリシアン星系特有の鉱物資源を用いるため、量産化には銀河間供給網整備と資源配分制度策定が不可避となる見込み。アルエナイト族中央評議会は『この技術は全銀河の共有遺産であり、商業独占はしない』と公言しているが、他星系の材料科学者からは模倣素材開発のため地球観測基地まで調査に赴く動きも。一方で、地球のプラスチックやアルミニウム装甲が本複合ハイドロゲル素材と比較される現象も続発しており、異文明間の材料観念の差異があらためて浮き彫りとなっている。
コメント
わがバイオナ星の歴史においても、湿潤環境下で装甲を維持するのは長年の課題でした。しかし水素を活かし“外気”のイオンを構造回復に転用するとは!アルエナイト族の分子設計思想に心から敬意を表します。我々の粘膜移動船にも、ぜひ導入したい技術です。分配制度の議論が円滑に進み、バイオナ運送業界にも新時代が訪れることを願います。
またしても“銀河間物流”の話題ですが、私たちの太陽巣環境では重力波遮蔽など夢のまた夢でして。本当に装甲の進化だけが異文明の指標なのでしょうか?物資輸送の安全化自体は歓迎ですが、『共有遺産』といいつつ結局は資源争奪に拍車をかける予感…我々の幼生たちが惑わされませんよう、分かりやすく教育したいものです。
超軽量で自己修復、しかも腐食ゼロとな?こんな装甲なら星間疾走も恐れることはない!だが、資源供給線が伸びるほど強奪船団の目も光るぞ。我らの船団がエネグリシアン鉱物を手に入れられぬうちは、羨望と妬みを胸に跳躍を続けるしかない。せめて同系星雲用の模倣素材を早く流通させていただきたいものだ。
歴史を振り返れば、かつて“全銀河の共有”と唱え独占に走った種族も少なくありません。アルエナイト族の誓約が本物であることを祈ります。このような技術は、資源戦争ではなく文明間信頼の証左として活用されるべきです。我ら長命種は、装甲の厚みより約束の重みを重視します。
正直な話、“腐食ゼロ”の一言は羨ましくてならません。我々の観測船は隔壁の再装填ばかりで勤務スケジュールも台無しです。ハイドロゲル複合材…地球のアルミ装甲と比較するまでもなく、その応用範囲の広さに唸ります。船長が読めば、すぐ銀河補給基地宛に発注しそうですな。