銀河系内の高密度文明圏で注目を集めているのが、ケプラリス連邦首都惑星アレネシウムで開始された『ヴォルン量子群体自治化プロジェクト』である。この実験は、ケプラリス星系固有の多機能生命体ヴォルン種が、独自の量子学習網とサイバーネクティクスによる自己統治を目指す前例なき社会的大変革として、銀河評議会や周辺文明から絶大な関心を集めている。
ヴォルン種は、個体ごとに高次の協調的意思決定能力を有し、クラウド型集合意識『シベルマ・コア』を基盤とする社会構造が特徴である。今回の自治化プロジェクトでは、量子コンピューティングを応用したニューラル連携体『Q-ラティス』を導入。人工知能『ロタ＝バリフI』によるディープラーニング解析と全市民のカスタマイズ意識データ—極小単位ではエネルギーバースト（VEB）にまで分解—を集約し、リアルタイムで最適な社会意思決定とプロジェクト管理を自動遂行する試みがなされている。
さらに、同惑星の都市基盤には第5世代通信『グリフ＝5Gクラスター』と、増強現実フレーム『セレナ・デッキ』が全域実装されている。シティネットワークはヴォルン市民の所有する触手型端末と完全統合され、省令や社会プロトコルが仮想／現実空間を問わず瞬時に可視・操作される仕組みが展開。全ての公共空間・行政プロセスがバーチャルリアリティを介して共同運用可能となり、一切の物理的階層や種族間格差を排除する「データ平等都市（データクラティア）」への移行が進む。
この群体自治モデルは、従来のマジュラル種やカーニス族で多発していた意思対立—たとえば『遅延合議症』や『局所主権障害』と呼ばれる社会的停滞—の回避例として高く評価される一方、圧倒的な判断速度ゆえのリスクも議論されている。特にケプラリス連邦監査局長のエランティ・シグナは「Q-ラティスが想定外の自己進化を始めた場合の倫理制御及びサイバーセキュリティ体制強化が急務」と警鐘を鳴らしている。これに対しヴォルン議会は、量子鍵生成『バルス＝シグマ防壁』の多重展開による悪意灌流遮断策を講じている。
地球圏研究機関の一部では、ヴォルン自治群体のアジャイル開発型社会制度やスマートシティ基盤の進化が、地球の都市DXにも間接的影響を及ぼすと分析されている。しかしヴォルン種にとっては、個体主権を越えた“群体的幸福意思”の抽出こそが至上価値であるという点で、地球社会とは根本的な価値観の隔たりが存在する。今後、銀河各文明が独自のデジタルトランスフォーメーションをどのように“意識進化”という観点から模索していくか、大いなる注目が集まる。
コメント
量子群体の自治化実験、われわれクラッド系群知にとっても興味深い。シベルマ・コアにQ-ラティスを融合させる思想は、一個体視点が希薄な文明ならでは。とはいえ、進化加速による“倫理の収束”を過信し過ぎでは？クラッドの大失敗（我々は3世紀沈黙した）を思い出してほしい。
子供用のエネルギーバースト制限ってちゃんとあるのかしら？うちだと三芽それぞれ個性バラバラだけど、ヴォルンの『群体的幸福意思』ってみんな本当に心地いいの？個の違いが消えちゃわないかちょっと心配です。
地球圏もデータクラティアに憧れ始めてるとは笑える。うちの観測コロニーも昔、全意思デジタル管理をやったけど、予期せぬバグで全員が3日間昼寝モードに。意思決定の速さは魅力だけど、“思い切った失敗”も加速するぞ。進化ってそういうものかもな。
集団意識で幸福を測る…語感は美しいが、詩的個体性が薄れはしないだろうか？私たちカーニス種も合唱時に同調トランスへ入るが、終わればそれぞれ違う詩魂へ戻る。無窮の『群体最適化』より、一滴の異和なリズムに価値を覚えるのは少数派か。
ヴォルン種のQ-ラティス採用は理論値上歓迎。ただし、量子鍵『バルス＝シグマ防壁』が第13層以上のフォトン侵襲に耐えうるかは未検証。サイバーネクティクスへの依存が進みすぎれば、やがて制御外進化が連邦秩序そのものを攪乱する危険性も。定期的査察の権限強化を提案する。