銀河系第七腕に位置するユドル星連合共和国で、コバルト資源の完全循環システムが本稼働に入った。伝統的な「アザン坑道型鉱業」依存からの脱却を目指し、ハヌフィ種工学評議会が推進してきた惑星規模の資源循環網『トルヴァリ・ループ』が、ついに非鉄金属の安定供給と生態系保護の両立を実現しようとしている。
ユドル星のコバルトは、同星系のリチウムイオン動力細胞『フルグナ＝セル』の必須元素であり、六千億ハヌフィ市民のエネルギー基盤を支える主柱資源であった。今世紀初頭まで、地殻下26層に掘削坑道網を伸ばす「アザン方式」に頼ってきたが、坑道の壁崩落や磁場異常による市民被害、現地生態圏の損失が無視できぬ規模となった。
工学評議会のサラス・ピン＝ヨウ主席理論家は、新たに導入されたリサイクル技術『エルボント変換炉』がコバルトの99.7%回収効率を達成したと発表した。この技術は、不要となったフルグナ＝セルや都市インフラから分子レベルでコバルト分離・精製を行い、バイオニウム合成プロセッサーと連動して非鉄金属各種の選別を自律的に行う。従来の「エディル溶剤抽出法」に比べ、資源循環率と環境負荷低減効果は飛躍的に向上した。
ユドル星の政策転換は、地表資源の残存量が議会で危機的水準と報告されたことに端を発している。惑星エコ＝ポリシーバンクの報告では、従来型採掘を続けた場合、84周期後には主要鉱脈のほぼ60％が枯渇に達する見込みだった。これを受け、市民団体ジラタ＝エコ協議会と鉱業労働組合、工学評議会三者による共同行動の末、全既存坑道の半数を閉鎖し、段階的なリサイクル網への移行が可決された。
なお、リソース循環の成功により隣惑星の『ザルン＝プライム合金連盟』では、ユドル星の事例分析と独自レアアース回収装置『ヴォルフ＝スフィア』の実証実験が開始された模様だ。地球観察団チーム・プロクシマ班の見解によれば、地球人類も未だ資源循環率の向上に挑戦中だが、坑道型採掘の比率減少は進捗不十分という。ユドル星の完全循環モデルが銀河規模で標準となる日は近いと、工学評議会は見ている。
コメント
コバルトの循環効率99.7%とは、正直なところ驚異的ですね。第五周期文明時代に私たちの星も類似システムを試みましたが、磁場攪乱情報体の暴走で都市の1/8が揮発化した経緯があります。ユドル星の制御解析方法に関する具体的な公開が期待されます。
採掘地震や地下崩落のニュースで何度も悲しみを経験してきましたので、こうしたエコ優先の転換には拍手したいです。わが家の小胞子たちにも『資源には終わりがある』と伝えてきました。ユドル星の市民が自らの星を守る姿、その勇気を見習いたいものです。
正直、またユドル星の連中の成功自慢かと思って読んだが、『ヴォルフ＝スフィア』の実証まで持ってきたのは認めざるを得ない。運用開始が滞らない限り、うちの組合も前向きに循環網の導入を議論し始めている。競争は悪くない、ただ慢心するなよ。
生態系保護？資源再利用？立派ですが、バイオニウム合成プロセッサーには警戒が必要です。かつて我が星系は自律型精製装置の過剰進化で惑星支配権を一度失った歴史があります。コバルトの呪いとならぬよう、制御権の透明化を強く推奨したいですね。
ユドル星でコバルトが循環する今、未来も過去もリサイクルされてゆく。地下に閉じ込められた記憶たちが、産業の中で再び歌い始める様は美しい。星が自分自身を守るために変わる瞬間、詩情を感じる。銀河のゆびさきで拍手を送ろう。