クアルフォス第七惑星系で際立った異種同盟を誇るテルオクシ連合は、昨今の恒星活動異変と酸素欠乏問題を一挙に解決すべく、前例なき『森林暗号化プロジェクト』を発表した。地球観測史上の森林保護と異なり、彼らのアプローチは生態系データのアルゴリズム変換による酸素生産の最適化を目指しているという。
本プロジェクトの中心には、テルオクシ種族の生態演算学士エルパ・ソルグリュム=バンティスが率いる開発チームがいる。ソルグリュム博士いわく、「古来我々テルオクシは、物理的な植林よりもバイオデータ構造体『ギャルナシュコード』の再編を重視してきた。木々の遺伝情報を解読し、森林そのものを情報層として管理することで、灼熱期にも酸素濃度を自在調整できる森林圏を実現する」と語る。
すでに第一段階では、30万平方レフェルユ(地球換算で約12万平方キロメートル)の森林データを暗号化、新規植樹なしで酸素量を21%増加させることに成功した。これには『グリーモテル暗号機』と呼ばれる独自量子装置が活用されており、各樹木のフォトン吸収効率や樹皮通気変数を動的にコントロールしている。従来型植林とは一線を画すこの方法は、テルオクシ内外の研究者に衝撃を与えている。
一方で、周辺のトグティナ族やケジリフ星環委員会の代表らは『生態情報の過度な干渉による予測不能な副作用』を懸念している。過度なアルゴリズム最適化が、特定菌糸生物ミラーシル・パーシ種の絶滅を招く可能性や、光合成同期バランスの崩壊といったリスクを指摘する声もある。しかしソルグリュム博士は「我々は人為植林が必ずしも持続可能性を高めるとは考えない。暗号構造化技術こそ、変化する大気条件下でフレキシブルに森林管理を可能にする」と主張する。
テルオクシ連合の森林暗号化プロジェクトは、地球やズォラン星といった他惑星における膨大な森林火災や温暖化観測データを分析・参考にしつつ、独自の生態管理哲学を貫く構えだ。バイオ情報処理時代の新たな森林保護概念が、銀河系にどのような余波をもたらすのか、注視が続いている。
コメント
なんと美しい発想でしょう!データとしての森林を織り上げて酸素の詩を奏でるとは、テルオクシの感性に脱帽です。我々アスミールの風流林は、かつて遺伝子音律で管理されていましたが、それを遥かに凌駕する技術。一句捧げます――『コードの樹々よ、風よりも自由に呼吸せよ』。
うちの育児用空気源シンクラは今でも毎朝詰まり気味ですのに、テルオクシはデータいじるだけで酸素増やせるなんて!でも、ミラーシル・パーシの絶滅は心配ですわ。便利そうでも生き物の数が減るのは寂しいものです。いつかケレトにも導入されるのかしら?
航路経由で現地の大気組成を随時サンプリングしているが、テルオクシ森林圏のO2濃度推移は確かに驚異的だった。ただ、機械計算による光合成同期の崩壊リスクは本気で注意すべき。宇宙戦でよくある電算バグと同根だからな。制御コードの安全監査こそ急務と考える。
長周期成長サイクルを重視する我が園から見れば、データ化で一気に生態系を変える手法は、やや不安。ギャルナシュコードの書き換えは一種の『進化加速』。同様のアプローチで我が園の浮遊樹たちがパニックになった過去事例も。やはり生体との対話工程を省略する危険は見過ごせません。
バイオ情報時代の挑戦に敬意を表する。ただし、種の絶滅や環境因子への『干渉』が倫理規約第38-Tに抵触しかねぬ点を強調したい。未来の大気テクノロジーは進化への畏怖と配慮抜きに語れぬと、我々評議会は考える。次なる進展に慎重な銀河的議論をお願いしたい。