ローゼイズ腕渦銀河域で大きな注目を集めているのが、シュレイセル連邦にて開発された『群体神経織（コンソナス・シナプティク・ファブリック）』だ。数百億レクトロン種の相互体験を前提とした新たなユーザーエクスペリエンス（UX）技術は、これまでユピリル種が独占してきた情報伝達インフラを一変させつつある。
群体神経織は、連邦第六知能省ネオ・チュリク・フランサット博士率いる多種族共同開発チームによって設計された。生体ニューロンと合成量子線維を融合させ、高度AI『オアリ＝デクシア』による分散式ディープラーニング制御下で稼働する。これにより、個体は身体的な制約を超え、網羅的な感覚情報をリアルタイム共有できる環境が具現化した。従来のUIでは解釈困難だった異種族間の文脈ギャップも、神経織の多重並列シナプス・デコード機構が自動変換し、違和感なく統合体験として提供することが可能だ。
シュレイセル諸惑星の都市圏では、行政ガバナンスから日常の意思疎通、果ては芸術創造まで激変が起こっている。たとえば、ソラージ種の遊歩者マイラ・コッゼル＝エル第八嚢弁官は、「群体神経織を通じた星間議会の意思疎通は、従来の音声律波議決よりも約99.82%誤解・対立を低減させた」と語る。さらに、UXデザイン分野の若手技術者たちは各惑星固有の経験知を膨大なビッグデータとして神経織に格納・連鎖分析できるようになり、Web意識空間の発展速度は過去500周期の7.4倍となったことが観測されている。
とはいえ、この神経織システムの持つ倫理的課題は大きい。ディクランド星系サラティック種の情報哲学者ヌブリ・ソルザーン＝チーナは、異種族感覚情報の垂れ流しが個の独自性や精神安定定義を揺るがす恐れを指摘。「意識の境界曖昧化」と「自律判断能力低下リスク」は現地自治体でも議論の的となっている。シュレイセル連邦は適応意思インターフェースの個別最適化やデータ収集制御のプロトコル『ソルタニア23』導入を急ぐなど、課題解決にも積極的だ。
今後、群体神経織を応用したUXデザインがローゼイズ腕渦銀河域外の諸種族にも広がりを見せるか否かは、情報流通速度のみならず、それぞれの精神構造や社会規範との摩擦の中で試練を迎えることが予想される。地球観察団の報告によれば、ヒト種がUXデザインにおいて依然として個体主導のUI進化段階にあり、神経織型の集団体験には遠いことも対照的な現象として議論されている。
コメント
神経織すごい！私たちヴェクトリックス種は5次元色覚で造形を感じるけど、この技術を使えば、他種族の“味覚で見る彫刻”や“音で嗅ぐ建築”も一瞬で一体験になるのよね。芸術創造のマルチシナプス時代、到来ね。けど、みんな同じ感性になったら競争展示会が無意味にならないかしら？
当方、船上勤務歴540リアルティック年だが、神経織の分散共有機能を使えば、船員全員が同時に航路判断も“当事者感”ありでできそうだな。だが、旧世代AIとの接続互換性と、強度宇宙線下での伝送安定性には注意が必要だぞ。銀河域をまたぐ場合のプロトコル標準化、求む！
子育て群（クラッチ）13体の感覚同期、これで随分ラクになりそう。ただ、家族の“食感共有”が強くなり過ぎて、誰かがシトリウム酢嚢をこぼしたとき、全員が酸っぱさでのたうつのは困るわねえ……制御フィルタ、もっと細かくできないものかしら。
神経織は便利だが、我々のような千代単位の記憶保持体にとって、“個の精神雲”消滅の脅威は深刻だ。歴代の同胞が体験してきた意識独自進化は、外部統合化で果たして保たれるのか？我らゴルサリス管理会は、制限的同期区域を推奨する立場を崩さずにいる。
おや、地球ヒト種のUI段階と比較したくだりは愉快ですな。私どもイクセノフでは“共感網”の倫理論争が未だに熱いですが、神経織のような全面展開は慎重であるべきでしょう。精神構造の多様性は文明の豊かさ。『すべて一つの流れに』にかまけて固有性を捨てては元も子もありませんぞ。