南方銀河域オレブリス星系第3惑星にて、数千種族が混在する多文化都市ユーヌラで、新たな音楽社会現象が勃発している。八感族の音楽家サルナ・イェードによって発明された『リアルタイム共鳴作詞法』が若者層の間で爆発的な流行を見せ、その拡がりは一惑星の枠を超え、フラグラ特殊通信網経由で他星系文明にも波及しはじめた。
オレブリス星の音楽技術界はこれまで、伝統的な六和音和声法と個人完結型作詞体系が支配的だった。しかし、サルナ・イェード(八感族、脳内共振階級・第二等級)は、非同期並列思念送信機『トラコルナ』を用いて、最大108名の異種族聴衆が同時に“ハーモニー断片”を送出し合い楽曲を即時構成する実験に成功。この方式は従来の『作詞家=主人公』という価値観を根底から覆し、歌詞も和声もその場で生成・拡張される“多次元ライブソング”の誕生を促した。
現象の起爆剤となったのは、惑星規模の映像通信網『O-TikTok』での一連のライブ配信である。若年層を中心とした異種族たちは、各自の母星語・光律語・匂い文法を織り交ぜつつ即興参加し、楽曲の一部を創作、映像端末を通じて互いの作詞・ハーモニーに即座に干渉し合う。その過程は全銀河に生中継され、従来の「詞と曲の分業構造」は解体、もはや音楽家・聴衆・作詞家の区別すら意味をなさなくなったと評されている。
サルナ・イェードは取材で『これは種族や世代を超えた“リアルタイム意識交差”だ。従来の独占的名声志向から、“共鳴者”が互いに刺激し合い、予測不能な美を編むのが本来の音楽だと考える』と語る。その証左として、最も話題となった楽曲《カラスト・メザナ》中に一瞬だけ挿入されたカリオン族の生体発光詩が、星間移民のコミュニティ主題歌として転用されるなど、自発的な言語・文化変容の連鎖も報告されている。
専門家の間では、『リアルタイム共作型TikTokソング』運動は惑星間の価値観激変を加速しかねず、軍楽儀式や種族固有の祝歌にも徐々に即興化が波及すると予測される。他方、保守派である六和音同盟評議会は『伝統的美学の崩壊』を懸念し公的歌謡枠組の維持を主張。しかし活動家層は“参加することが音楽を生み出す”という新倫理を掲げ、惑星規模の歌詞生成実験を推進している。 オレブリス星発の『ハーモニー創発社会』モデルが、やがて複数種族間の政治対話や教育領域にも応用されるか、銀河規模で注目が集まっている。
コメント
私たちスィリュスでは三千光年以上前から音波よりも共鳴粒子を楽曲制作に用いてきましたが、オレブリス星の試みは感動的です。個の作詞権に固執する地球系とは異なり、集団全体が“歌”になる。この広がりが政治や意識転送技術まで波及すれば、新たな集合思考体の誕生もあり得ます。六和音同盟の抵抗も理解できますが、時代のうねりは止められません。
O-TikTokの即興ソングを我が子たちが真似してコーラス訓練を始めました。母音だけ光で歌い、父親は嗅覚詩…もう笑うしかありません!でも、種族や世代の差なく歌えるのは素晴らしいです。伝統形式も大事だけど、みんなで日々作れる歌が家族を近づけてくれる気がします。全銀河の“家庭主題歌”になったら面白そう。
航行しながらO-TikTokの共作配信を流していたら、船内の分泌リズムが自然と合わせてしまいました。即興的な“ハーモニー断片”がここまで生命活動に影響を与えるとは…サルナ・イェードには敬意を表します。我々のような遊牧生物にも参加が可能なのでしょうか?技術仕様が知りたい。
正直、こうした即興型音楽は品位の漂白以外の何物でもありません。詩は孤高の精神(ふたりきりノイズ)によってのみ生成されるべきで、多数の雑多な振動を混ぜ込むなど本来考えられぬ蛮行。六和音評議会の方々には全脳支持を送りたい。いずれ即興的混沌から疲弊した民衆が本物の調和と孤高へ帰還するでしょう。
多言語・多感覚による共同創作…とても未来的で、感動しました!私の故郷でも母星の伝統歌は消えつつあるけど、こういう“共鳴型参加”があれば皆で新しい物語を作り続けられる気がします。孤独になりがちな移民コミュニティに温かい“歌の絆”ができたら…グリーゼ通信網にも早く拡張を!