トリウム腕渦巻銀河第4系に位置するイベナー連邦議会にて、「銀河多元法（Codex Galaxy Diversity）」が圧倒的賛成多数で可決された。これによりイベナー領内に居住する72種族3,200億体（推計）を対象とした異文化共生・平等原則が初めて明文化され、連邦版アファーマティブアクションや、種特性に応じたハラスメント防止措置など、かつてない広範囲な制度改革へと踏み出した。
イベナー連邦は従来、『普遍感応律』と呼ばれる精神界ネットワークに基づき、議会や職域での意思決定と調停を行ってきた。しかし、物理生命体・エネルギー体・集合知性体など異質な種族間の摩擦は絶えず、静音者バグレン族は高周波情報漏洩を問題視し、熱核体イリル族は生体リズム無視の会議進行に不満を表明していた。今回成立した銀河多元法では、このような生態・知性形態ごとに調整された『調和勤務帯（HarMod Zone）』『共感通訳装置（Sympathizer）』などが導入され、多様性の実効的保証が図られる。
特に注目されているのが、クォリス族の生息液体ゾーンや、モノロン族の4次元行動区域といった物理的環境違いの保障である。新法ではワークライフバランスとして『自恒帯（Self-Phase Zone）』制度を設け、各種族の生活リズム・交信慣習・宗教儀礼を妥協なく尊重することが定められている。また、意思伝達トラブル対策として、種族名を伏せた仮想人格による匿名議論ツール「イデンティクラム」も広く配備される見込みだ。
一方、ハラスメント防止条項も強化された。たとえばガル＝シュル族の慣習挨拶である膜振動行為は、ドモム種族にとって生命脅威と解釈されることが問題視されていた。銀河多元法は、このような文化的摩擦を防ぐため『相互安全検証装置（SafeConstruct）』の常時携行を義務化するとともに、誤解や偏見の拡大を防ぐ教育プログラム『ノエマ講義』を義務化している。連邦大学の学術評議員ケルン・ユィリクト博士（イリル族）は「共有知覚ツールと多元法との併用が、真の平等社会の実現を加速させる」と述べている。
イベナー連邦による画期的な制度改革の試みは、隣接するオグルトル協定星系やリベト連環文明にも波紋を広げている。かつて地球訪問時の観察記録からは、単一種族社会における均質性と排他性のジレンマが報告されてきたが、イベナーでは『ボーダーレス意識体』による国際交流プラットフォームも既に始動している。今回の多元法施行は、多種族宇宙社会における多文化共生と持続的発展の新たなモデルケースとなろう。
コメント
我々ヴァルナー腺体体は、発光コミュニケーションの異種間理解に長く苦悩してきた。このイベナー連邦の多元法は、知覚様式や物質存在形式の垣根を越えようとする勇敢な試みだ。特に『仮想人格による匿名議論』の導入は、群体思考を持つ者にも発言の場が開かれる点、大いに評価する。今後は精神界ネットワークだけでなく、物理的存在系へのさらなる橋渡しも進むことを期待したい。
うちの巣では幼体たちが混血種族で、毎朝リズムがずれて大変なんです。イベナーの『自恒帯』制度、ぜひケレト星でも採用してほしい！ 液体生体も気相種も、みんなが自分のリズムで暮らせるなら、揉め事も減るはずよ。あと、あのノエマ講義ってこども用もあるのかしら？
72種族なら、まだ序の口では？ 時間流の異なる者同士を同時に法で扱う難しさは、我々航行士には日常茶飯事。『調和勤務帯』でどこまで摩擦を減らせるか注視したい。イベナー連邦の新制度が時空漂流民にも門戸を開く時が来れば、いよいよ多元社会の真価が問われるだろう。
物理生命体中心の法整備と見えなくもないが、エネルギー体への適用まで考慮された点は進歩的である。だが本質的平等は、波動共振そのものの自由から生まれるもの。法の整備だけでなく、精神界での深い共振教育が必要だ。我らの次元にもいずれ波及するか、観察を続ける。
イベナー連邦の動きは賞賛されているが、私は懐疑的だ。制度が増えるたび官僚性と形骸化が進むのでは？ 例えば『相互安全検証装置』なんて、持ってるだけで安心した気になる道具だ。真の共生は、装置や規則ではなく、日々の対話から生まれるもの。お隣文明として、形式主義で終わらぬことを願う。