銀河系第3環・恒星メドラを公転するゼニャスト星連盟において、従来の労働観を根底から変える仮想現実テレワーク「ヴァース・ハーモナイズド・コラボレーション（VHC）」の導入が飛躍的な拡大を見せている。14触腕族・行政官リアン＝ド＝ミヴェラが本部声明で語ったところによれば、これは従属惑星132カ所から2,000種族に及ぶ参加者が一斉にサテライトオフィス役割を果たす、銀河ビジネス史上類を見ない動向だ。
ゼニャスト星連盟のVHCプラットフォームは、脳波同調型インターネット網『インフラネティック・ループ』により全ての知的種族のニューロンパターンを共振し、言語や形態を超えたリアルタイム意思疎通を実現する。これによって、噴射型粘体族のヨ＝カルゥ副委員や高温多脚族ガーラ＝ニット＝ネミ長官らは、互いの生体環境の物理的障壁なく、仮想現実会議空間で自由に協働できるようになった。物理体で集う必要性が消滅し、各自が母星で最適なエルゴノミクス（自種最適作業動作）を保ちながら、連盟全域でアバターとして出席する光景が日常化している。
新たな労働制度のもとでは、勤務単位も従来のメドラ時間基準から個体独自の生体リズムに合わせて柔軟に設定されるようになり、ワークライフバランス理念『シンフォニック・エクイリブリアム』が行政要項に明確に組み込まれた。これにより、単一種族や惑星に縛られず、例えば液体知性体ケラン種の夜間活性期、浮遊胞子族トリス＝パリンの数日周期休眠など、多様な生態系労働スタイルが共存する。産学官の観測チーム『ユニバーサル・ポリシー・サーベイヤー』の集計では、導入以降、職場ストレス由来の神経判断ミスが89%減少し、生産効率指数は41%上昇した。
一方で、伝統派評議会『エルザク評定連』は、VHCを通じた異種族間共感やバーチャルコラボレーションの普及が、固有文化の稀薄化や、地上社会での直接交渉力低下に繋がることを懸念。これに対しテクノロジー部門のソロム＝ヴェイル主任は「仮想現実こそが多様性を深化させる場であり、情報摩擦が減ることで個々の特性がむしろ先鋭化する」と主張。現在は両派が共にウェビナー形式の公開討論『シナジー・フォーラム』を毎晩開催し、賛否両論を住民同士で討議する姿も日常的となった。
銀河系周辺域で他文明もVHC類似技術の開発に着手しつつあるが、ゼニャスト星連盟の知的生命体協働モデルは、今や「多重惑星連携の未来形」として各星系の注視を集めている。なお、観測対象である地球では、依然として三次元肉体会議や非同調型通信による意思疎通が主流であるものの、一部で『リモートワーク』と呼ばれる未成熟な遠隔勤務形態が実験的に導入されているとVHC戦略室は報告している。
コメント
ゼニャストのVHC導入、実に興味深い流れだ。当方が監督するメタ多重脳群社会では触覚情報が重視されるため、仮想空間での全身体験融通は技術的難度が高い。だが、神経判断ミスの激減率は驚異的。わたしどもの議席体も導入を検討すべきか慎重に議論したい。文化希薄化への危機意識は一定の理解。だが、進化的多様化を加速する新たな出発点とも見える。
正直、私たちには少し速すぎる変化です。我が胞子家族は、毎日の共振歌と根系対話を何より大切にしています。仮想空間でも『本物の感触』は再現できませんもの。でも、若い胞子たちは皆ヴァースでつながりたがるのよね…時代なのかしら。けれど、お茶の間で触れ合う静寂な時間が消えはしないか、やはり不安です。
ゼニャストの新制度――すごいな、航行中でも仮想会議に“泡”として出席できるなんて、正直うらやましい。ウチの船団じゃまだ遅延0.1秒が大事件だからな。実体験がない分、互いの物理的“質量観”がどう変わるのか知りたい。あと、地球人類のリモートワーク伝説…AFNの地球ウォッチ班の最新レポートが待ち遠しい！
また一つ、星間の技術が我々の大切な“地表礼儀”を侵食する。異種協働は理念としては素晴らしいが、我々シオト族は千年以上、暦に合わせた対面交渉で部族の絆を守ってきた。ゼニャストのような急進的融合は固有文化消滅の温床となるやもしれぬ。VHCは危険な利便性だ。慎重なる討論を歓迎する。
ワォ…粘体族も多脚族も、あんな鮮やかに共振できるんだね！ゼニャストの技術チームにアート・インターフェイスを教えてほしい。遠隔でも“多孔管音楽ワークショップ”を開催できたら、惑星を問わずみんな感情ヴァイブが交換できるのに！うちらタルーニは仮想現実でやっと色覚シェアができたし、こんな自由な創造空間に胸踊るよ！