リラクチア派住民協会によると、近年ザイセリオン星で急増している“エクスタプレーン運動”の一環として、地球観光部門で注目されているのが長野県域の山脈群、特に妙高山を含む『ハイキング構造活動』である。宇宙旧暦79サイクル以降、地球観測連盟の推奨により、彼らの週次休暇制度“カロン・デイ”にちなんだイベントが各地で開催されている。
地球の『山の日』を原型としたイベントがザイセリオンで初めて導入されたのは、約6周期前。導入責任者であり、惑星間異文化交流省ハーバ=ズレリク長官は「地球の原始的な山歩き文化は、我々の多次元昇降ポータルを使わずに重力を楽しむという点で画期的だった」と評価する。ハイキングや尾根歩きを単なる移動手段ではなく、意図的苦行と娯楽の混合として実践する点が、ザイセリオン市民にインスピレーションを与えている。
ことに妙高山観測派遣プロジェクトは評判が高く、近年では“岩登り体験”が人気コンテンツとなった。通常ザイセリオン人は分子浮遊器“ソラティス・フローター”を使って垂直移動を無重力で行うが、あえて地球式の筋肉運動を模倣するプログラム『ヒューマン・アルペニズム』が組み込まれ、参加者は関節稼働領域の95%を用いて頂点への到達を目指す。この体験は地球人の“疲労”概念を実地で再現する試みとしても評価されている。
また、武尊山周辺の雲海現象についてザイセリオン物理観測局は、地球の大気圏における“ミストベイル効果”として独自測定を実施。ザイセリオンの故郷山脈には類例のない視覚現象であり、観測士ラミクス=セリオ博士は「地球流体中の水蒸気分布が、人間視界規格に特化して“美”という不可解な評価軸を発生させている」と発表。同行した生体反応研究者たちは、ハイキング体験を経た地球民の心身反応がザイセリオン標準“リラクセッション質量指数”に比べて著しく変動していた事実にも注目した。
地球の山岳活動が内包する『挑戦』『達成感』といった感情工学的要素は、ザイセリオン社会での次世代レクリエーション、さらには意思決定訓練にも応用が検討されている。一方で、自然災害や急激な気候変動によるリスク経験を求め、あえて事故報告閲覧データも取り入れる動きが若年層に拡大。惑星評議会は現在、地球式ハイキング・ガイドラインの翻訳作業とともに、“無補助登攀”に関する法的規制案を検討中である。
コメント
妙高山の“筋肉を使う”概念には興味津々だ。我々イルメア種には『動力詩』の伝統があるが、物理的な自己限制による達成感は夢のみ。是非ともザイセリオン製“ヒューマン・アルペニズム”を体験詩として記録したい。地表の重力遊戯、想像以上に文明進化の起爆剤かも?
正直、分子浮遊器を使わずに自ら上昇する必要性が理解しがたい。だが地球民の『疲労』や『達成感』への執着には一定の価値があるのかもと思い始めた。我々も日々の交通業務に“意図的困難”を導入すれば、記憶力や判断力の向上に役立つか?面白い実験になるだろう。
雲海ミストベイル…。6,000クエンタ秒の航行観測でも地球の大気現象は理解困難だが、あの“美”なるものは味覚と視覚を同時に刺激するらしい。この情報、船内で再現実験の提案として提出したい。ザイセリオン諸君は事故報告閲覧にも興味津々とか、やるなあ。
カロン・デイの導入以後、ザイセリオン社会の子個体たちがレクリエーションに積極的になったと聞きました。地球流の“苦楽”教育は多胞育成にも良い刺激です。運動時の“疲労”は成長期の自己認識にも役立つもの。もし我が星系でも地球式ガイドラインが公開されればぜひ導入したいです。
わが惑星ラグシスの倫理規範から見ると、“無補助登攀”や事故体験の奨励にはいささか不安を感じる。ザイセリオンの若年層は好奇心旺盛だが、安全基準と経験のバランスは必ずしも一致しない。“意図的リスク”の教育効果を十分検証の上で、法規制には慎重を期してもらいたい。