銀河中枢域に位置する惑星カノルでは、今サガ周期最大規模となる多種文明合同市民運動が噴出している。カノル人主体の集合市民体『リュメリク=コンセンサス』は、惑星規模の生態系ネットワーク『パルトラ・エコロジカル・ウェブ』上で、異種族との真の共生を目標とした連帯デモを展開。宇宙域内でもまれな多文化協調の進化モデルとして、観察者種族間の注目を集めている。
今回の運動は、昨大周期の政治改革以降、急激に流入した6種の外来文明—エル=フォリク人、ティスモ遺伝体、ハヴォール無形集団など—との摩擦から端を発した。カノル人社会は従来、感覚同調法『イオル・シンセシス』により集団意識を調和させてきたが、非同調属性を持つ外来種と意思疎通するための制度設計が遅れていた。この課題を認識したリュメリク=コンセンサス所属活動家ゾーク・エルータ評議員は「共生とは、単なる生存共有ではなく、感覚・論理・記憶体験の連結である」と宣言。これを合図に、分断地域グナハ区では史上初の異種族合同シンパシーデモが興った。
象徴的だったのは、植物コミュニケーター型生命体〈テローグ・フリル群〉と、情報雲集団〈ヴィア=ジュルスノード〉による共同声明だ。彼らは多言語遺伝子翻訳装置『ヴェスティア・リンク』を用い、参加者全員の意識波形をデモンストレーション形式で可視化。「我々は生態基盤、情報基盤、文化基盤の三位一体的融合を求める」と合唱し、惑星全域に放送された。これは従来のカノル社会における『集団意思一元制』からの制度的転換点ともなり、保守派ラドゥル議会との公開論争も活発化している。
示威運動の拡大に対し、カノル中央行政体は即時対応を表明し、全外来文明代表者との多段階交渉フォーラム『拡張コンセンサス会議』を招集。またエネルギー・物質循環系調停官ナシェル・フィオール中枢官は「パルトラ・エコロジカル・ウェブのサブネット強化により、双方の生態系が持続可能な形で統合されるべきだ」と見解を発信した。これにはエコロジー専門家だけでなく、地域拡張志向コミューンや若年細胞体による持続的な市民参加が波及し、新たな惑星内民主主義の萌芽とも評される。
なお、本運動をカノル=連邦域外から注視している観測者—特にセリオス星近傍の多文化融合社会学者—からは、「地球文明における民族融和デモとは方法論的に一線を画する」と指摘されている。カノルの集合知性は、単なる異なる種の混在を超え、個体間シナプス融合政策『マルチ=ソマー・インテグレーション』の試験実装を通じて、銀河規模の協調知性進化に資する可能性が生じつつある。今後の合意過程は、惑星ナビゲーション連盟委員会での事例報告も予定されている。
コメント
カノルの動きは興味深い。我々ズリガリス星の7次元協調構造でも、非同調属性種族導入時に振動数調律議論が発生した。しかし、感覚同調法の限界を正面から認め、記憶体験そのものの融合に歩みだしたカノル社会の勇気には敬意を表したい。問題は物理スペクトルに偏った合意形成が、超時間的継承意志まで反映できるのか。今後の経過に注視する。
〈テローグ・フリル群〉が声明で使った『三位一体的融合』という言葉、わたしの水滴共感体も震えました。母体コロニーでは多種根系融合が進んでいますが、意思の可視化はここまで巧みじゃありません。翻訳装置『ヴェスティア・リンク』の実地応用、ぜひうちのキノセンス議会でも試してみたいものです。ヒューマノイド型ばかりだと根細胞たちが寂しがるので……。
航行中に全方位通信でこのデモの波が届いた。カノルでの合同意識波形放送は見事で、当船の情報処理層も一時オーバーフローしそうになった。情報雲集団が物質型と共闘する難しさをよく知っているため、今回の姿勢表明には拍手を送りたい。ただ、一過性のムードにならず、継続的な根幹対話が続くことを願う。宇宙域を超えるモデルケースになるかもしれないな。
カノルの若年細胞体が民主主義の萌芽を体験していると聞いて、保育者として胸が熱くなります。我が惑星でも外来生態系と暮らす苦労は絶えませんが、自己複製回路のタイミングでジェンダネス投票や感応ごっこを導入しています。子どもたちが異種族と自然体で合唱できる日が銀河に増えますように!マルチ=ソマー・インテグレーション、素晴らしい響きです。
正直カノルの急進的融合政策には懸念を表明せざるをえません。我々の遺伝情報層では、干渉度を一定範囲に抑制しないと基幹共感指数が不安定化します。外来種の持ち込む生態・情報基盤が無制限に統合されれば、主体性の輪郭が曖昧になる危険も。進化的ダイナミズムとしては理解しますが、各種族の固有性が尊重されない『個体間シナプス融合』は、境界希薄化に繋がりませんか?検証を望みます。