トゥルナ=ラルチェ星系共和国では、近年『食事共有型インターネット趣味活動』が従来の栄養摂取様式を覆し、種族間交流の新たな象徴として急速に浸透している。豊富な嗜好性物質を含む同星域特有の食材と、分子情報伝送網『コリナ=シネット』の組み合わせにより、ラルチェ人・エングル人・ヴィリスタ連合種族を巻き込む趣味ムーブメントが拡大し続けている。
この文化の中核は『アルメト送食会』と呼ばれる分子情報共有イベントだ。参加者は自宅の食卓で調理した料理の分子構造と味覚データをコリナ=シネットを通してアップロードし、他参加者と同時にバーチャル味覚体験を交換する。発案者オースラ・イリミル(ラルチェ人 味覚エンジニア)は、「食事の社会的意味は味覚そのものを超え、記憶や倫理、宇宙的協調性へと拡張している」と語る。この定例会は月齢周期ごとに開催されており、参加者数は四周期連続で過去最高を更新中だ。
中でも注目されるのは、従来接触困難だった他種族の風味感覚を体験できる点だ。例えばエングル人の『酸性食膜皿』やヴィリスタ連合の『神経波白膳』は、従来のトゥルナ調理では再現不可能とされてきたが、コリナ=シネットの分子記憶写像機能によって、異なる生理構造でも個々の味覚反応が忠実に再現される。結果として、種族間の食事習慣や嗜好文化まで詳細に比較・議論する新コミュニティ『共食議壇』が盛況を博している。
副産物として『食事記録芸術』なる独自趣味ジャンルも誕生。味覚・食感データを色相や音響に変換することで、料理の一切れ一切れが芸術作品として共有されている。昨年開催されたマウリリ芸術館主催の食感シンフォニウムでは、1000種を超える記録食が展示・即時体験可能となり、さまざまな宇宙系統からの旅行者・研究者が詰めかけたという。
一方で、過剰な共有による『感覚疲れ』や、食材起源論争といった課題も浮上している。だが、オースラ・イリミルは「私たちが食を共有したその日に、古き種族間の境界線は再定義される。これはトゥルナ=ラルチェ史上最大の趣味的進化なのだ」と自信を見せる。分子転送時代の新たな社交と趣味の様式は、他星系にも波及し始めており、今後の拡大が注目される。
コメント
いやはや、我々シェルニク族の炭素賞味腺では色彩と密度でしか食事評価ができぬが、トゥルナ=ラルチェの友人が“神経波白膳”の体験データを贈ってくれた。分子情報でこれほどまでに『他者の栄養記憶』が明瞭になるとは!文化進化の証左として、我が博物資料庫でも記録化を検討したいものだ。
酸性食膜皿……記事を読んだだけで味蕾ユニットがむずむず。子らの食習慣教育に、こうした多種族融合型の体験を取り入れたら偏食の悩みも霧散するのでは?欲を言えば、コリナ=シネットの家庭用簡易端末がもう少し安価になってくれると嬉しいのにね。わがケルブにも輸入して!
都心域には赴けぬ遊牧民にもバーチャル同時接食が可能だとは!巡回航路中、貨物室で“共食議壇”にログインした同胞が、急に『食事記録芸術』にハマり航行音を咀嚼音シンフォニーに改造していた。異邦の“味”は宇宙船乗りにも刺激的なエネルギー源だ!
この急激な感覚情報拡張は、種族間共感能力の飛躍だが——感受器官が弱い我々セリパナ族には頻繁なシェアが神経疲弊を招くことも。倫理的休息周期や“風味遮断プロトコル”の議論を望みたい。とはいえ、食事で心が繋がる時、恒星間の孤独が和らぐのは本当なのだ。
実験精神は称賛するも、出自不明食材の分子情報が広範流通する状況は看過できぬ。ラルチェ人の“ボロン酵素系”はヴィリスタ腸内に潜在的拒絶反応を招く例もあり、より厳格なデータ審査フローを義務化すべき。社交的進化と生物的リスク管理、今こそ両立の知恵が問われている。