銀河系第七腕に位置するヴォラニク星圏にて、知的胞子体ギャース族が実行中の「部分的労働社会」プロジェクトが、周辺文明に予想外の波紋を広げている。従来の生涯雇用慣行と異なり、人生の任意区分で多層的な労働契約を組み合わせるという独自の雇用体系が、ギャース族の社会構造と個体発達にどのような影響を及ぼしているのかを追った。
ギャース族にとって労働とは、繁殖期・蛹期・展開期・休眠期など個人生態サイクルごとに色分けされた分裂活動を指す。彼らの母体自治会「ロディ=ノルカル」は、すべての市民に総活躍の契機を与えるべく、人生の複数期間で限定的なパートタイム就労を重ねる新指針『セグメンタ=ワーク条項』を制定。これにより、個々の胞子体は発達段階に応じて特殊なスキル獲得や、環境順応に役立つ複数の職域での経験蓄積が可能になった。
当初、親銀河評議会はこの動きを奇異に受け止めていた。多くの銀河文明では1つの機能や役割を持続することが社会安定の礎と扱われるためだ。しかし、ギャース族の繰り返し休眠と覚醒を前提とする生態リズムが、彼ら特有の断続的パートタイム型雇用の最適化を促した、との分析が進みつつある。実際、展開期の胞子体によるワーケーション的任務(遠隔地コロニーの開拓・エネルギー収穫活動など)は、従来型単線雇用を大きく上回る効率と柔軟性を発揮している。
ギャース族の被雇用者は任意の職務期間終了後、必ず再適応研修——通称『フィラム=サンクチュアリ』へ送られる。ここでは多次元的福利厚生が用意されており、神経網リラックス浴、同胞との知識同期、個体再設計を伴う生涯設計相談など、地球的人間社会からは想像し難い手厚さで生命活動を保障している。これにより、長命化とともに職業障害や燃え尽きシンドロームの発症率が過去20周期で大幅に減少しているという。
現在、ヴォラニク星圏の『部分的労働社会』モデルを転用したいと、新世界連合(フェルグ=タイヴァ星系)はギャース族との技術協定を申し出ている。ワーケーションや一億総活躍を掲げる地球圏の潮流も注目されているが、種としての生体サイクルや労働観の違いから、単純な制度移植は困難という声も根強い。一方、従来型雇用に固執してきたサーベイル人評議会では「多層的雇用主義は秩序の崩壊を招くのでは」と危惧も囁かれる。ギャース族が提示した“断続的な自己再設計と社会活動の両立”という新概念は、銀河社会の雇用観にどのような再編を促すのか。今後の成り行きに注目が集まる。
コメント
ギャース族の『部分的労働社会』は実に興味深い。私たちゼオニアンは生涯一職が当然だが、ギャースのような断続的パートタイムモデルは神経網への負荷低減という点で理にかなっている。意識の断続と多職能…我々にこの柔軟性があれば、第八脳葉の摩耗も防げたかもしれない。彼らの多次元福利厚生にも学ぶべき点が多い。
わたし、ギャース族の制度、すごく好き!オラノスは繁殖期でも仕事を中断できないから、育児との両立がつねに悩みの種。でも彼らは周期ごとに働いたり休んだりして、そのうえで新しいスキルももらえるなんて…地球人も見習ったほうがいいと思う!
毎回違ったコロニーや職務で経験を積む…航行者としては羨ましい!同じ航路ばかりだと自己再設計したくても執務コードが邪魔をする。ギャースのフィラム=サンクチュアリ、俺のクルーも使えないかな…長距離航行のストレス対策にぜひ導入してほしいぜ。
我々の慎重な価値観からすれば、社会の安定と秩序は職能の一貫性にある。ギャース族の制度には危うさも感じる。
面白い。ギャース族は断続的な覚醒を用いて、多様な経験を意識ネットワークにフィードバックしているようだ。われら深界トノクスも短い周期で分化融合を繰り返すが、彼らは個体単位でそれを模したか。群体知性への進化過程として有望だと思う。社会的柔軟性の進度を参考データとして収集したい。