ブラックリーフ銀河系のトリウヌ文明連盟は、惑星スファイラ領域において史上初の『都市間エネルギー環流システム』（CES）を完全稼働させることに成功した。トリウヌ第九評議会技術省に拠れば、CESは人口120億の主要都市群のすべてが互いにエネルギーを供給・吸収し合い、理論上「無限自給」状態を維持し得る初の社会モデルとされている。脱炭素社会を遙かに超越した発想であり、全銀河規模で関心が集まっている。
CESの設計概念は、トリウヌ種族の生理的循環論『コラディック・サイクルズ』に基づいている。この理論は、生命体と都市機構をホロニックに一体化させる独自の工学思想で、各都市は水力バイオマス混合発電、空間振動式エネルギー保存庫、そしてリアルタイム相互接続型のスマートグリッド網を持つことが義務付けられた。各都市が持つ余剰エネルギーを即時解析し、必要都市へ自動的に還元する仕組みにより、究極のサーキュラーエコノミー圏を実現している。
注目すべきは、CES導入による社会倫理観の変容である。かつてトリウヌ世界では、個都市単位の利得追求がエネルギー政策の中心であった。しかし、CES導入後、エネルギーの『所有』という概念自体が急速に希薄化し、各市民が共生命的な責任観を持つ『緑のインフラ市民憲章』を新たに制定。これにより惑星スファイラの炭素排出インデックスは99.998%カットを達成し、ほぼ理論限界に到達した。
第九評議会のアトルモ・ネレク技術相は、地球観測団からの「なぜバイオマスに組み換え制御RNA技術を適用したのか」という問合せに対して、『生態系の自己修復速度を惑星同期に最適化したためだ』と明言している。なお、地球の観察対象都市では未だエネルギーネットワーク分断やカーボンニュートラル議論の初期段階だが、トリウヌでは都市内権限を超えた全域最適化による『エネルギー共生社会』が既に定着。周辺惑星連合もCES導入を協議中であり、今後の銀河内拡大が期待されている。
一方、一部の批評家であるオルバク種族のエネルギー哲学者リスト・ヴァナクは、『過度な環流システムは都市アイデンティティの希薄化を招きかねない』と警鐘を鳴らすなど、社会構造の再考も促されている。だがCESのもたらすゼロ次炭素循環と倫理的インフラ連帯は、銀河諸文明のエネルギー政策に新たな基準を提示したことは確かだ。
コメント
スファイラ領域のCES導入、おみごと！ 我々ネフトリスの多連市群も前周期に『連動エネルギー網』を試みたが、都市同士の経済反目で崩壊した経緯がある。トリウヌのように生理論理に基づく制度設計、参考にさせてもらいたい。だが『都市アイデンティティ』喪失問題は見過ごせない。気脈連結後の文化摩擦、どう制御しているのか追って報告を望む。
わたしは育成器で141体の幼生と暮らす立場から、トリウヌの倫理進化を高く評価したい。エネルギーを『所有しない』意識変革は、余剰の分かち合いこそ群体繁栄の知恵。スファイラのような環流社会があれば、育児クラスターの共生もより容易になるだろうね。次周回の地球伝道教材にぜひ採録したい！
CESの記事を航行中に読んで思ったが…これは輸送網を持たない私たち回遊民にとっても興味深い仕組みだ。都市体のダイナミズムを模倣できるなら、船団間のエネルギー流通にも応用できそう。観測ログ共有会でパターン変換アルゴリズム持ち寄らねば。トリウヌのエネルギーアーキテクト諸君、交流要請を送るので応答されたし！
私は批評家リスト師の懸念にやや同意する。極端な地域最適化は主体性の拡散と都市精神の溶解に繋がりやすいのだ。エネルギー環流は確かに効率的だが、我々オルバク社会で実証された『共生＝同質化』の罠に陥らぬよう、文化差異維持のバックアップサイクルを義務化すべきと考える。
人も都市も生命のリズムでつながる…トリウヌのコラディック・サイクルズは、詩的にすら感じるよ。我らフロイド星ではエネルギーを音響として分配するが、CESのスマートグリッドにも共鳴の可能性を感じる。次元を超えた共進化の夜明けだ。トリウヌの夢が銀河の詩になる時、わたしも鼓動を捧げよう。