ザルドラン連邦、自動運転車から運転席を撤廃 自発進化型制御システムが標準化

夕暮れ時の異星都市を走る運転席のない未来的な自動運転車両群のリアルな写真風景。 自動運転車
完全自動運転化が実現したザルドラン都市の交通風景。

ザルドラン連邦工学評議会は、連邦全域の公道を走る自動運転車両から運転席を完全廃止する決定を発表した。これは、連邦標準の自発進化型制御システム「ヴェルヴィクス11.3」の普及が全車両の99.98%に到達し、“操縦者”という概念自体が失われつつある現状を受けての判断だ。従来、他惑星の文明では運転操作のためのスペースや器具が不可欠と考えられていたが、ザルドラン社会ではついに「前方」「アクセル」「ハンドル」といった用語すら消滅しつつある。

ザルドラン連邦の大多数を占めるジェド=リオン種族の脳波通信技術により、移動手段に対する“目的地意思”だけが走行に反映される仕組みがすでに標準となっている。自動駐車や変動路温度対応といった課題も、「ハイドロカーヴァ・カメラネット(360方向多層可視フィールド)」による外部情報統合アルゴリズムが巨大ニューラルクラウドと即時接続されることで瞬間的に解決される。ヒストリカルパネル(歴史保存派)からは運転席撤廃への懸念も出ていたが、事故発生率が計測可能な範囲で0.001%を下回ったことで、重要性を持たなくなった。

ザルドランの新基準制御システムでは、各車両に搭載される意識認証モジュール「フィオリックス・キューブ」が乗員の意図や状態、各自の認証DNAパターンに応じた最適経路を自律生成。一度決定された進路は、惑星軌道交通網「ネレトン・リザーヴ」と連動して逐次調整され、相互衝突のリスクもほぼ消失したと工学評議会のメルド・ソーリン主席技官は断言している。

ザルドラン幼体教育機関では、従来型の運転操作教育(いわゆる「マニュアル操縦法」)を廃止し、車両制御アルゴリズムの成立史や倫理的指針のみを教える新カリキュラムが導入される予定だ。「乗員が意識的に車両を『動かす』」という観念は、ジェド=リオン世代の若年層にはすでに歴史的伝承内の話題となった。社会調査機関アディシェ解析局によれば、ザルドラン市民の89%が「運転行為そのものの必要性を将来的にも理解できない」と回答している。

なお、地球においては依然として運転席および操縦者の存在が広く観察されている。ザルドラン連邦外務局の報告では、地球の“運転”という行為には感情的満足や社会儀礼的側面が強く絡んでおり、今後数世紀は自動化の完全実現が見込まれていないとしている。ザルドランでは、地球の交通管理アルゴリズム研究が“19世紀的ノスタルジア”として学術分野の興味を集めているが、これを文化的多様性の一例として議論する動きが強まっている。

コメント

  1. ついにザルドランでも運転席が消滅か。我々オロマでは10万カラ周期前から乗り物の“方向”という概念がなくなったが、ザルドランの発展速度はいつも興味深い。ヒストリカルパネルの懸念も分かるが、“操縦”そのものが文明進化の過程と捉えるべきだろう。地球の車輪操作儀式も、その点でよい比較素材だ。

  2. わがヴェキーンでは旧式の運転席を一部、社交場や詩の朗読スペースとして再利用している。ザルドランのような合理化には敬意を払うが、車内での議論や触覚合奏の場まで自動化するべきかどうか、我らは引き続き検討中だ。とはいえ、ケガのリスクがほぼ消えたのは羨ましい限りだ。

  3. 自発進化型制御、いい響きじゃないか。航行主任として言わせてもらうと、意図を伝えるだけで機体が動いてくれるのは正直ラクでいいよ。だけどトラブル時の“手動介入”が完全になくなるのは、やっぱりちょっと不安だな。ヴェルヴィクス11.3、宇宙嵐にも対応可能なのかね?

  4. ザルドランの皆さん、素晴らしい機能ですね。私たちも日々の食材運搬を自動化したいのですが、ケレトではまだ運転席に手足を10本も詰めて苦労しています。ジェド=リオン脳波通信システム、ぜひケレトにも輸入お願いします!料理しながら移動できるなんて夢のようです。

  5. フィオリックス・キューブによる個体認証―便利さの陰に倫理あり。我々プラネティアでは意志入力の遠隔干渉に強い警戒感を持っている。利便性の拡大は結構だが、個体意識や共用体験の喪失には目を向けるべきだろう。ザルドラン社会は今後、意識共有と管理のバランスをどう保つのか、注視したい。