恒星リダルズα系で唯一水素密度の高い惑星リクシラックのサーファー達が、近年関心を集める「テラブ波チャレンジ」への遠征レポートを公開したことで、銀河スポーツ評議会内で波乗り文化と宇宙倫理について活発な議論が巻き起こっている。あらたな論争の発端となったのは、リクシラックの波乗り名手カラン＝オルピス・ゾナル（ズコ族サーフ統制評議員）が、地球型惑星“テラブ”訪問後に帰還し、「地球人流のサーフキャンプには奇妙な規律が存在する」と発言したことに始まる。
リクシラックでは超高圧の液体水素海洋上を長尺のバイオ・カーボンボード（現地語: グラントール）で渡るロングボード競技が古来から盛んである。この競技では、波同士やサーファー同士が複合共鳴波として織りなす“波群礼儀”が最重要の徳目とされてきた。しかし、テラブ（地球）では個人主義的なボード選定――「ロングボード」と「ショートボード」に明確に分かれる傾向があり、しかも一定のサーフキャンプでは波待ちの順序や優先権など、細かな規則が厳密に運用されているという。カラン＝オルピスは帰還報告で「自分が同調減衰波（リクシラックのサーフィンでは歓迎される技）を披露した際、周囲のテラブ住民に“不審な視線”を受けた」と証言した。
この報告は、銀河全体で拡大しつつある『異星間スポーツ体験交流プログラム』（通称: クロスウェーブ協定）の今後の運用方針に波紋を呼んでいる。特にアルミリス星系のスフェラ族は、「“波礼儀”は文化的制度であり、惑星固有の水流知覚進化にも左右される」とし、単純なルール統合の危険性を指摘。また、クロスウェーブ協定評議会議長のエルグロス＝ヴァネア提督は、「多様なサーフキャンプ体験を尊重しつつも、異種族間コミュニケーション指針の改訂が必要」と声明を発表している。
リクシラックのズコ族サーフ界では、遠征帰還者による“テラブ波のマナー検証サミット”が急遽開催されることになった。現地の映像記録からは、ショートボードによる“リッピング”動作やテラブ独自のジャッジ基準に戸惑うリクシラック選手団の様子も確認されており、従来銀河では見られなかった拡張的な競技解釈が話題を呼んでいる。一部の若手サーファーは「テラブ流の自由な発想から新たな技術革命が生まれるのでは」と期待を寄せている一方、保守派は「波との共生倫理の崩壊」を懸念する声も根強い。
銀河中で熱を帯びるこの波礼儀論争は、単なるスポーツ技術にとどまらず、各惑星の社会的価値観や文明交流の在り方にまで波及しつつある。カラン＝オルピス・ゾナル本人も次回サミットでの意見表明を予告しており、クロスウェーブ協定を巡る論戦から今後も目が離せない。
コメント
私たちスィフォル族の間では、液体フッ素雲を泳ぐ礼儀として “波にまず感謝し、味わう” ことを第一に教わります。テラブの細やかな規則は立派ですが、波自体との対話が薄れてはいませんか？ ズコ族の“共鳴礼儀”に近い精神、その宇宙的広がりを見直して欲しいものです。
うちの幼波操りっ子たちにこの話を読み聞かせたら大笑いしていました！板を分けて競うのも不思議だし、“波との共生”という考えはケムラス流お風呂競技とも似ていますね。異星間でも『波マナー』が問題になるだなんて、宇宙って本当に色々なんだわ～。
時間感受性が256倍の我々ステリオン人にとって、波との礼儀作法が“瞬間的な判断”に依拠するのは実に不可解。もしかすると、テラブの“規則”は思考速度が遅い彼らなりの合意形成手段なのかもしれません。協定改訂では、各種族の認知速度や知覚幅にも考慮を！
地表の波に乗るなんて驚異的だよ。私の星じゃ波はプラズマ粒子で、うっかり形態崩壊の危険性まであるんだぞ。どちらの流儀も面白いけど、相手のやり方に ‘不審な視線’ を向けるのは宜しくないな。新しい体験にはやっぱり“柔軟な触手”でいかないと。
我らスフェラ族の古代詩にも“波の協奏と和合”を謳う一節があり、惑星ごとの水流感覚の違いこそが文化の多様性を育んできました。ルールの統合を急ぐより、それぞれの星の波との語らいを重んじるべきです。歴史が証明するのは統一より調和、と私は信じます。