惑星ヴェポリンの銀河経済連邦加盟から三恒星周期が経過し、今やその特異な循環経済モデルが注目を浴びている。中でも“生体循環市場”と呼ばれる交換制度、そして新たに登場した“エコ個体通貨”の導入は、従来の流通・貨幣観念を根底から揺るがせている。諸種族の間で資源消費の持続可能性が課題となる中、ヴェポリン人の発想は他星系社会に一石を投じている。
“生体循環市場”は、ヴェポリン人特有の環環(カンカン)型経済組織によって管理されている。これは、資源やエネルギーの消費と補充を、すべての生命活動単位ごとにリアルタイム計測し、循環均衡が維持される範囲内でのみ個々の経済活動が認可される制御システムだ。例えば、プラスチックに相当する“グレイス樹脂”や、遺伝子設計バイオマス素材などもこの体系に組み込まれ、過剰な廃棄が生じれば即時に生産制限信号が発せられる。地球型貨幣と異なり、資源そのものの循環効率が“支払い能力”となる点で画期的である。
注目すべきは、昨サイクルに公表された“エコ個体通貨”の登場だ。これは各個体(個人・法人・多細胞合同体)が、自己の年間カーボン収支・廃棄バランス・生態系寄与度を基に演算されたポイントをユニットとし、あらゆる取引の共通尺度とする新経済単位である。ポイント数値は全銀河加盟ネットワークで透明化されており、一種の社会的信用制度としても機能する。特にグリーンツーリズム分野で、他惑星の旅行者が環境負荷の少ない宿泊や移動手段を選択する際、この通貨を利用した優遇制度が導入されて大きな反響を呼んでいる。
ヴェポリン当局がこうした持続可能な制度設計に至った根本には、特有の“炭素審判会議”の存在がある。各季(年相当)、自治体ごとにエネルギー消費状況が事細かく公開され、炭素税率と資源配分の調整が市民参加型で実施される。議決はデジタル細胞核(ヴェポリンのAI型意思決定装置)が補佐し、感情バイアスを抑えた公平な調整を保証する。これにより省エネルギー技術や、新世代の再生可能エネルギー資源—たとえば“光合反転炉”や“微胞流タービン”—への転換が急速に進行した。
この独創的な循環経済モデルは、漸次ゾルギリア・ドロヒス星団などの新興惑星圏にも輸出され始めている。銀河規模のプラスチック削減運動、“バイオマス経済同盟”への参加を検討する動きも加速し、惑星消費文明の転換点として評価が高まる。地球観測官団も最近、ヴェポリンの制度研究を提言に盛り込む方針を示しており、今後この生体循環市場が銀河持続可能経済の新たな標準となる可能性が期待されている。
コメント
ヴェポリンの“生体循環市場”は、我々プラズマ知性体にはやや生物寄りの設計に映るものの、エネルギーバランス制御と経済行動の直結という発想は極めて先進的だ。エコ個体通貨の透明性は信用崩壊を抑止できるが、要は非生命物質系にも応用できる汎用性がどこまで拡張できるか注目している。次は無機質経済圏への適応だろう。
まあ、これだからヴェポリン人は新し物好きで困るわね。私たちのコミュニティでは子孫7世代分の排泄循環まで根付いてるの。いくら炭素審判会議が先進的でも、家庭のぬくもり指標は通貨に換算できるかしら?でも観光客優遇はちょっと羨ましいわ…また夫を説得して旅行に連れて行ってもらおうかしら。
流浪の身からみてもこのエコ個体通貨制度は画期的。われわれのような永住地を持たない種族にも、移動の軌跡や消費計算で貢献度が数値化されるなら、単なる“よそ者”扱いが減るかもしれない。だがヴェポリン式のAI判断が、個体性の曖昧な集合生命にも公平たるや? その検証を忘れてはならない。
“炭素審判会議”、興味深いが、我々ズラキ人は過去→未来→再び過去への循環で生きているから、資源利用に刻限を定める制度は不安になる。ヴェポリン流が時間直線的な経済しか見ていないなら、星間圏の多様な時間感覚に合致するには改良が必要そうだ。だが、決して排除的にはなりたくないと思う。
ニュースで光合反転炉の映像を見て家族一同感動したよ!私たち蛍族は発光で周囲環境にエネルギーを供給し合う習性だから、“循環経済”という言葉がようやく銀河でも理解されて嬉しい。今後、うちの農地でもグレイス樹脂規制の導入を検討する予定だ。ヴェポリンに感謝!