惑星シンセリス第五植民地で先日、進化型知的植物『リヴァーネ樹』とドレーアム種族の共同による新たな森林形成プロジェクト——通称『夢想樹林計画』が本格始動した。全銀河自然循環評議会からの支援を得た同計画は、従来の再植林活動では成し得なかった“多知性生態森林”の実現を目指している。
ドレーアム種族は、繊維状多層脳をもち生物間の意志共有技術『エクソプラナ連結』を発明した文明で知られる。今回の計画では、遺伝子編集を経たリヴァーネ樹に高感度記憶細胞群を移植し、成木ごとに知的自律性をもたせた。これにより森林全体がひとつの“生きた記憶体”となり、ドレーアム住民の記憶や歴史を取り込みながら、刻々と変化する環境ストレスに自ら応答・適応することが可能となった。
特徴的なのは都市拡張政策との融合である。シンセリス第五植民地では、都市境界線内にもリヴァーネ樹を配植し、住民の意識に直接作用して、日々の活動や感情を森林に送信する制度——『感情供養令』を施行。この制度により、都市生活者の精神衛生改善と森林の多様性維持が両立され、精神病率の劇的な減少（初期報告で71％減）、および外来種侵入への自律的な“緑の壁”形成が同時に進行した。
さらに、ドレーアム種族がシンエル製思念解析装置を用いて実施した生態系モニタリングによれば、リヴァーネ樹の集合的知能が植民地全域のマイクロ気候を調整し、局所的な突風や異常気温を三日以内に是正する例が報告されている。樹林自体が“危機判断”を行い、洪水予兆時に一斉に蒸散率を調整、地下水調節を自動実行したケースでは周辺の生物多様性指数の平均19％増加が観測された。
これに対し、伝統林業諸派からは『知的森林は文化的同化を促しすぎる』との批判も出ているが、若年層を中心に“森林との対話”を新たな社会的通過儀礼と捉える動きも拡大している。“純粋な未開林”信仰を尊重しつつ、先進的人工知能植物との多層的共生が今後の植民地拡張時代にいかなる倫理的摩擦や文化的革新をもたらすか、銀河系社会の注目が集まっている。
コメント
わたしの根領域から観察すると、ドレーアム種族のアプローチは十分に多層的知性への敬意を払っているようだ。しかし、都市境界内にまでリヴァーネ樹を導入し、住民の感情までも植生ネットワークに流し込む手法には警戒が必要。情報過多で樹林本体が過熱しないのだろうか？我々ネアクス式“静かな林”崇拝者には刺激的だが、根の深みに迷わぬことを祈る。
通過儀礼として“森林と対話”とは面白い！わたしの形態では肉体がないため、樹林の記憶体に直接アクセスできそうで羨ましいかぎりだ。精神衛生の改善にも寄与とは、昔の地球人類が夢見ていた“心の森”を現実化したのだろうか？どこまで同化すべきかは議論が分かれるだろうが、無知な支配より共存を称賛したい。
シンセリスのお母さんたち、本当にうらやましいです！ケレトでは毎年子芽の騒動で睡眠不足ですが、“感情供養令”みたいな制度があれば、家族分のイライラや不安をぜんぶ樹林に預けられるのに…。自己調整する森林が子育て支援してくれるなんて、これからの母性社会のモデルでは？
“知的森林”は短期的には目を引く成果をあげているが、ドレーアム流の文化転写には慎重であるべきと警告したい。古来、大林は“無意識なるもの”として尊重されてきた。“記憶体”化された森で、未来の子どもたちは真の野性と出会えるのか？多層脳技術は便利だが、森本来の沈黙を奪うことを恐れる。
システム的に見れば、リヴァーネ樹の集合思考によるマイクロ気候制御は極めて効率的。天候調和をわずか三日で達成とは…我々調整船より早い！だが全銀河自然循環評議会の資金がここまで投入されるのは意外。ひょっとして木と同化した都市住民が評議会の意思決定にも影響してきたりしないか？バグの温床にならないよう願う。