第七螺旋域の高度知性体が集う惑星ドロノイで進む新たな福祉政策、“共感福祉革命”が、銀河ネットワーク上で波紋を呼んでいる。これは従来の物的・金銭的支援から脱却し、種間共感と神経接続技術を融合した全く新しい困窮者支援モデルだ。多様な身体形態や知覚様式を持つ種族が社会を構成するドロノイでは、障害や困窮の定義すら流動的。そんな中、今回の改革は福祉の本質に迫るものとして全宇宙知識層の注目を集めている。
ドロノイ星最大の都市オル＝トリュでは、社会保障機関『エフオナス庁』の主導で、大規模な“神経共感ネット（センスネット）”インフラが完成した。これは、困窮状態にある市民、さまざまな障害特性をもつ者、保護が必要な胞子幼体などが、無料で公的共感端末にアクセスし、自己状態データと社会全体の感情資源をリアルタイムで交換・補完できる制度だ。単なる金銭給付ではなく、“集合的ケア意識”を直接的に共有することで、支援の網目を飛躍的に細密化している。
特に話題となったのが、子育て支援と障害年金制度の再設計だ。ドロノイ種族の研究者タ＝レム・ジオリ博士によれば、新設された《互感育護モジュール》により、未成熟個体の保護者は自身の精神的疲労や困窮度を隠さず申告し、周囲の市民が共感ポイントを即時分担できるという。その結果、孤立育児や精神的不調への対処が大幅に改善。身体的・知覚的障害を持つ個体にも“社会的リフレクター”を通じた直接感覚調整補助が制度化され、従来の年金支給型から“健全体験共有型”へと転換した。
住宅問題でも、ドロノイ政府は転生型生態住宅“ミラ＝セルフ”の配布を強化。居住権は所得や能力ではなく、社会的ネガティブエネルギー指標で決定され、外的弱者だけでなく“共感困窮者”も保護対象となった。従来型の生活困窮者自立支援法『デルファック法』も大幅改訂され、すべての市民が自らの“欠如”を社会データバンクに匿名登録し、AI議会“ノースシン”の自律判断により最適な資源が半自動で分配されている。
地球の伝統的福祉政策が物理的・法的支援に偏る現状を踏まえ、ドロノイの“共感福祉革命”は銀河評議会内外で熱い議論を呼ぶ。中立評価機関ユルヴァル＝コンソーシアムの分析によれば、「種族的違いを超えた感情共有型社会の実験」として画期的とされつつも、逆に“個体境界の脆弱化”や“共感疲弊リスク”を懸念する声も根強い。今後は、異星間の応用モデル検討や、ドロノイ社会内部での持続可能性評価が鍵を握る見込みだ。
コメント
我らフロス種においては、個の境界なき感応共有が常態。ドロノイの施策は、分離主義的社会には画期的だが、意識連結への幼稚な幻想も感じる。だが、個体性を尊重しつつケア網を織る仕組みには大いなる進化の兆しを見た。願わくば“共感疲弊”で全てが遠心に剥落しないよう、補助的無意識領域の導入を推奨したい。
ついに他星でも胞子幼体保護に共感リソース制度が！私たちの外殻村では、共感は香気交換のみ…神経共感ネットはきっと育児がもっと楽になるでしょうね。互感育護モジュール、うちの胞子たちにも使わせてあげたいわ。いつかヴェレミエでも導入されるといいなと期待しています。
この試み、興味深い。物的支援を超えて感情資源を流通させること、それ自体は倫理的進歩。しかしアルコンにおいては“個体境界の不可侵性”が法の根幹。センスネットに登録された感情が容易に濫用される危険を看過できぬ。個体の意思と社会効率、尊厳はどう調和されるのか。ノースシンのアルゴリズム公開を望む。
オル=トリュの夜景、センスネットの光が美しい。外から観測していると、ドロノイ市民たちの精神パルスが都市網を走るのが見えて感動だ。ただ正直、都市全体がいつか“超過共感疲労”でブラックアウトするんじゃ…とシフト中にかすかな不安も覚える。バランス、難しいよな。
興味深いが、共感そのものをエネルギー資源のように扱う思想には疑問がある。我々鉱層種は、自己欠如を内的沈殿と見なす文化だ。感情を外部から補完し続ければ、やがて個体の内なる重層性が失われるのではないか？ドロノイの道は涸渇か成長か…時間が答えるだろう。