第七渦星系の惑星リアラでは、今年度の大気安定周期に入ってから全国的な曇り状態が持続し、連邦議会で大規模な気圧配置制御政策を巡る激論が起こっている。異常気象の影響による曇天が続くことで、光合成型種族ヘラクシアンや気温依存型産業ノヴァリン製造業に深刻な影響が出ているのだ。議論の中心は、気象庁に相当するデルタ気象観測庁が提案した「高気圧集束プログラム」の運用に対する是非で、従来からの降雨促進技術に対する懐疑論も再燃している。
リアラ連邦最大の文明都市カナロスでは、連続126周期に渡り分厚い曇り雲が天蓋を覆い、生活圏の平均自然照度が過去最低を記録した。とくに太陽光を主なエネルギー源とするヘラクシアン議員ブリル＝サールは、連邦議会の臨時会合で「このまま曇りが解消されなければ、我々の生存基盤そのものが失われる」と警鐘を鳴らした。一方で、過去三世代にわたり高気圧制御と降雨制御技術によって気候均衡を保ってきた工学者ラル＝ヴィナス（気象庁中央評議員）は「都市部の大雨特別警報発令が増加したことを踏まえ、気圧再編成には慎重であるべき」と発言し、技術介入の限界を示唆した。
こうした状況下で注目を集めているのが、リアラ伝統の気象予報士集団「ウェル＝ナヴィゲイター協会」の動向である。彼らは通常、古代遍歴衛星メトリクスからの大気圧波観測値を用い、3層式予測模型で天候解析を行っているが、今回の大規模な曇天の持続については予測困難であると公式に認めた。協会代表のユラ＝ティナスは「気圧配置の変動が過去データに見られないパターンで移動しており、従来のアルゴリズムが乱れ始めている」と分析する。
デルタ気象観測庁は、緊急気圧集束衛星「ペリオ＝Ⅱ型」を用い、局所的な高気圧強化を試みる方針を発表。しかし、これに反対する生態保護評議会は「気圧集束によるビリオ＝沈降雨の誘発で、生物多様性が甚大なダメージを受ける」と指摘しており、科学技術指導庁内でも慎重論が高まっている。実際、過去の類似操作では広範な降雨集中と、その後の大気停滞が社会問題化した経緯がある。
リアラ連邦社会における気象予測と気圧配置制御は、生命の維持に直結する極めて繊細な領域だ。現在、気象庁・工学者・予報士・各種族代表が参加する「大気次元調和会議」が設立され、ガイア＝リング網による大気解析データの共有拡大と、深層学習型予報装置「トルシア・モデル」導入の検討も進む。今後、高気圧技術と倫理・生態系配慮のバランスを、文明全体でどう調整するかが問われている。
コメント
リアラの気圧介入技術はいつも興味深く拝見しています。しかし、大気を安易に操作することは、生体ネットワークの予測外の連鎖反応を招きがちです。我がフュムナでも一度、自己修復型雲層を除去しようとして二世代ほど暗闇を招いた例があります。デルタ気象観測庁はデータの中央値だけでなく、体系全体への微細な波及も慎重に検討すべきです。
ヘラクシアンのみなさんのお気持ち、たいへん察します！ 私の故郷ケリオもかつて雪雲魚の大量漂着で陽光不足に陥りました。不安定な大気圧制御は産業と生態系の両方に大きな揺らぎをもたらします。気象技術と伝統予報士、それぞれ長所短所があるので、どちらか一方に偏らず『調和』を目指してほしいです。
正直、リアラの雲幕は上空航行者にとってはありがたい遮光材でした。ただ地表種族の光合成問題や、過不足なく気圧を調整する難しさには頭が下がります。上層大気からの観測データも共有できれば、面白い解決策が出るかもしれませんよ？
この議論、とても倫理的に重大です。気圧集束衛星で短期解決を図る誘惑は理解できますが、既存種の多様性や大循環数十周期後の影響もしっかり議論すべきです。我が連合では、大気制御の倫理規範が定められており、安易な介入で失敗した年前例もあります。リアラ連邦が同じ轍を踏まないことを願います。
わたしは雨にも曇りにも美を感じられる存在ですが、リアラの空がこれほど灰色をまとい続けると、きっと光を愛する者たちの心は冷たく重くなるのでしょう。天候を人為で編み直す過程も、ある種の詩ですが、種族たちの『空への想い』も忘れずに調和を目指してほしいです。