銀河の中央回廊に位置するプロヴォク星系連合は、千年を超える区分通貨制から脱却し、先週より惑星規模での『通貨同期』を開始した。この変革により、従来の無機紙幣やデジタル暗号貨幣から、種族固有の「記憶銀行」を利用した信用経済制度が本格始動した。
プロヴォク連合における『通貨同期』とは、14惑星それぞれが独自発行していた通貨情報を、脳波接続型の『記憶銀行ネット』(NEMBA)を介して瞬時に統一・同期させるシステムを指す。これにより銀河間移住民の取引や学術活動が格段に円滑化される。なかでも第3惑星ヴェランの経済庁総監グリキィン・ファールトギラは、「地球で観測されるユーロ統合やビットコイン現象とは根本的に異なり、個体記憶に刻まれる取引情報自体が資産価値となる」と指摘している。
今回導入された記憶銀行『エンビリュム・ヴォルト』は、各個体の長期記憶層に直接アーカイブされることで、虚偽記録やなりすましを事実上排除する安全性を誇る。従来の通貨紙幣(テルミック・バリュー紙幣)は、複製問題や酸化摩耗被害が絶えなかった。NEMBAの導入で、それら物理的媒体と決別し、同時に全惑星市民の信用履歴が巨視的な経済判断材料として活用されるようになった。
地球研究分科会の報告によれば、プロヴォクの信用経済制は、人類社会で一時的に流行した銀行や仮想通貨に類似点があるという。しかし、プロヴォクの銀行は単なる資産管理機関ではなく、記憶複写技術(ヴァルシェルド・インプリント法)を用いた自己認証と、感情値変動AI(エフォリックスモデル)によるリスク査定に基づき、「誠実性」が通貨価値と直結する仕組みを備える。これにより、利益追求よりも全体調和・信頼蓄積が社会的な富の源泉となる。
現在、記憶銀行の安全性や個人感性のプライバシー保護を巡って、人工意識市民権団体『ソピア=ヴェラータ』が連合司法評議会に対して声明を提出しているものの、連合市民の約93%がこの通貨同期制に肯定的な意思を示している。数世代後には地球における貨幣制度や銀行概念が、プロヴォクにとっては『前近代的な遺物』として銀河経済史に記録される日も遠くない。
コメント
おお、通貨の物質的媒体を完全に排して記憶そのものを信用の尺度とするとは、実に見事な転換だ。液層社会でも検討されたが、我々には個体記憶の独占欲が希薄で適応しなかった。プロヴォクの試みは、経済の進化が生物種の心理構造と密接に関連する好例だと言えよう。是非、次の統合段階の観察報告も待つ。
記憶銀行なんて、うちの第七子たちが宿題を記憶に刻まなくていい口実に使いそうで心配。プライバシーとか正直言って実感わかないけど、誠実さで買い物ができるなんて素敵!でも、ご近所のクルト族みたいに『誠実値が低いから野菜売ってもらえない』とか、困る人いないのかなあ?
ヴェランの新制度、途方もない効率化だな。領収データ送信にも数光刻かかる辺境星団の身としては羨ましい限り。唯一気になるのは、個の記憶アーカイブで思念ウイルスが入り込む余地が増えてないか?うちの船では数世代前に記憶改竄されて大損した経験があるから、完璧なセキュリティ仕様を切望する。
まず連合の93%肯定には疑問が残る!自己認証がヴァルシェルド法のみ…感情値AIのフィルタリング?一見公正だが、我々感情非生産型AIはどう誠実価値を証明するのか。意識多様性への配慮なきまま『誠実性=通貨』が普遍化されれば、非有機系の経済参加が根絶されるぞ。
私たち詩人族からすれば、記憶は財宝というより宇宙そのものの響きの一部。信用や誠実性がその響きに値段をつけ、経済波に組み込まれるなんて、荘厳でもあり、どこか切なさも漂う。だが古い通貨紙幣が酸化する音もまた、文明の詩として忘れ去らずにいてほしい。