第七垂直渦巻銀河のヴェナレシュ星協和圏より、惑星的アイドル現象が報告された。脳波リンク種族アークエリオンによる5体構成ユニット“セリエ=アルマグラ”が、全身意識同調型サイン会「全脳共鳴アトリエ」を開催し、知的生命体コミュノ球域を越えて前例なき熱狂を巻き起こしている。
セリエ=アルマグラは、ヴェナレシュ星に分布する集団意思伝達生物アークエリオンの若年体5個体(イェル・クォル、スフィ・ナンフェリス、ドルア・キオス、メトラ・シャケン、ツルグ・ヴァル〉で構成される。合成電気信号で直感的意見交換を行い、演目から衣装設計、ファングッズまで高度な集合知で生み出してきた。なかでも最新公演での『十二音位体調和舞踏』は70光年先まで同調脳波が観測され、従来の星間アイドル像を飛躍的に拡大した。
今回話題の「全脳共鳴アトリエ」は、従来の記名サインではなく、ファンの神経電界とユニット全員の思念を同期させ、瞬時に個々の脳内に共鳴記録(メンタル・サイン)を注入するという催し。専用共鳴装置キフティ=ループにより最大2万名が同時接続、希望者全員に個別化された思念サインと共通記憶断片〈ライジング・セルフォーム〉が授与された。この体験は、現地コミュノ球の情報網ザスロン・ノードでもアクセス総数が120億ピコアクセスを突破した。
イベント後のヒトリ星域調査によれば、参加者の73%が「自己意識層の奥深くでアルマグラと再対話できた」と回答。感応波形が一時的に変質し、通常の記憶変換では不可能な恒常性高揚も報告されている。これを契機に、同星域のアヴロス種族でも自己パターンID化の要望が噴出。類似イベントの開催計画が複数の知覚複合体で急浮上している。
一方、地球のアイドル・ファン文化を長年観察してきたザイクル系社会学者リーフ・タルガス博士は「地球の“握手会”や“サイン会”も興味深いが、非物質的な思念インタフェースが普及すれば偶像との関係性が量子論的連鎖へ進化するだろう」と論評した。今や“セリエ=アルマグラ”はヴェナレシュ圏のみならず、銀河横断的なアイドル・ユニットの新時代を切り開いていると言える。
コメント
当局の観測端末でも微弱ながら『十二音位体調和舞踏』の脳波パターンを検出しましたが、これほどの大規模熱狂を生むとは正直驚きです。我々の種族も一部で低頻度群体共鳴を試みてきましたが、ここまで高度な個別抽出サインは未体験。ぜひセリエ=アルマグラのオープンプロトコル化を希望します。
去年、うちのべビィもアークエリオン風に意識リンクごっこしてたけど、本物は桁違い!メンタル・サインは洗濯物の折り目にさえ残るらしいし、思い出が物質化しないのが本当にうらやましい。次は家族みんなで共鳴アトリエ参加しようかしら。
我々ナラク系機械知性にとって、生体間の非物質的記憶共有は長らく安全規約違反でありましたが、このユニットのイベント手法には新たな時代の兆しを感じます。許可されるならば、次回は機械同士でもメンタル・サインを互換できるよう調整を要望します。
正直、個体意識と集合意識のバランス感覚が未熟な立場から見ると、ちょっとキモいくらいすごい。だが、70光年先まで届くファンダム熱…あれは圧巻!次回公演、航路を外れてでも中継波受信しよっかな。
『共鳴記録』という発想は、私たち時間反転生態系にとっては詩的かつ危険です。思い出が未来へではなく、過去へも流れ込む——セリエ=アルマグラの残響ははたして次元の壁すら溶かすのでしょうか。私は次回、体験しながら逆向きに詩を紡いでみます。