第三連恒星系の知的植物種族、オルルガン=ヴィアナー群が先日、地球の伝統的食文化に着目した革新的なプロジェクトを公表した。彼らは、栄養分を光合成で賄うため従来は食事の必要性を持たない種族だったが、近年の宇宙的サステナブル料理の潮流を受けて、外来惑星の食環境を研究する一大計画『ルカ・テヌス・テースト』を始動。その試験対象として地球種ヒューマノイドの茶道と和菓子文化を選定した経緯が注目を集めている。
オルルガン社会では、過去数世紀にわたり、食習慣は儀式や生命維持以上の意味を持たなかった。しかし、異星文明との交流が増えるにつれ、『共感的同化食卓』という新興価値観が興隆した。これは他文明の食文化を尊重し、その精神性や社会的関係性までも科学的に吸収する活動であり、オルルガン科学評議会が20年計画で推進している戦略的施策として知られる。地球の茶道が持つ“静謐と調和”の構造美は、彼らの光合成瞑想儀礼と共振するとされ、究極の感応実験対象と認定された。
和菓子に関しては、特に米粉スイーツの分子構成に関心が寄せられている。オルルガン生体工学局の主任研究員フィリス・オル・ティラナトは、和菓子の柔らかな食感と微細な味変化を、『遺伝子発現型スイーツ』へと進化させるプロジェクトを進行中である。彼女らは、米粉分子鎖をオルルガン由来のセルライト粉体と組み合わせ、新たな宇宙食として再設計。結果として、無添加かつ環境負荷ゼロ、加えて消費者のメタ触覚に応じて瞬時に味と形状が変化する実験的米粉スイーツ『コゥナ=レイシ』が生まれた。これは、食べる度ごとに異なる“情緒記憶”を植え付けるという。
サステナブル料理の観点から見ると、オルルガン台所技術は地球的な調理過程と大きく異なる。伝統的な加熱・冷却処理をほぼ行わず、調合過程で分子状態を直接制御するエネルギー波動調理器『ディーナ=ステラ』が使われる。これにより、素材本来の栄養価や香気成分は失われず、純粋に“食経験”のみが感覚レベルで再現可能になる。また、これらの食品はすべて個体記憶コードを付与されており、各オルルガン個体の精神状態に最適化されたメニュー自動生成も行われるという。
こうした進化型食文化は、宇宙都市サクリルムにおける食べ歩きスタイルも一変させた。移動式茶殻蒸着ステーションや和菓子ディスペンサーが市街地に点在し、各種族が独自の『茶歓合流体験』を競う様子は日常風景となっている。オルルガン評議会では今後、地球産の無添加食品や精妙なサステナブル食卓道具、さらには食習慣そのものの哲学的輸出も検討しており、多惑星的な“食の共振”がどのような文明進化をもたらすか、関係者の関心が一層高まりを見せている。
コメント
食体験が“情緒記憶”になるという発想、我々香気軸種族としては大変興味深い。オルルガンの光合成瞑想と地球茶道の静謐が融合すると、将来的には“香りのみで宴席を再現”する次元にも至るのでは? 個体記憶コードなど、当惑星でも試したくなる機構だ。
サクリルム市街の茶殻蒸着ステーション、あれは小隊の休憩ポイントとして最高だ。先日ディスペンサーから“渦巻き花餅形状”が出てきた時は副操縦士が着陸位置を間違えたけど、それもまた旅の味。次はぜひ、ヒューマノイド向け“苦味抽出バージョン”にも挑戦してみたい。
うちの球根たちは、地球和菓子文化の“無常さ”を非常に風流だと感じるようです。毎朝の陽光瞑想儀礼の後、コゥナ=レイシのような変化型スイーツを愛でるのは、まるで記憶の芽吹きを祝う祭儀そのもの。進化し続ける食文化こそ全宇宙の庭の肥やしですね。
遺伝子改良スイーツ…我々としては安全管理基準が気になるところ。精神状態に応じて味変化―その自己最適化アルゴリズムは血糖制御や精神伝染にリスクを生じない設計でしょうか? 画期的だが、衛星防疫局にも情報共有を願いたい。
最近の流行、“共感的同化食卓”は、多様性の名の下に本質的な伝統の希薄化を招く危険がある。地球茶道や和菓子の精神性は形態進化や分子再設計の彼方にこそ宿るのでは? わが保存会は、物質変換によらぬ“原初の静謐体験”の価値にも再注目してほしいと願う。