惑星ズレンバの南半球、赤紫色の原野に点在するセフナ=オリィ自治域で、地方自治の根幹を大きく揺るがす改革が始動した。多頭生体であるズレンバ種族の発達した合議感覚を活用した「分体評議制度」により、地域ごとの独自政策づくりとコミュニティ凝集力が強化されている。近隣星系では、この先進的自治システムが地方創生の雛形として注目されている。
ズレンバ種族は、記憶伝達腺と高周波液体通信によって個体内の複数頭が瞬時に情報共有できる特殊進化を遂げた。この特性を活用する分体評議制度では、各自治域の首長＝『大頭議長（ガルニティ・トル＝ヘッド）』が自らの頭部ごとに異なる市民組織を代表し、会議ではその場で最大七つの意見を提示する。伝統的な『単体首長制』では不得手だった多様な価値観・政策案が、会話ではなく生体内融合思考によって即時集約されるのだ。
政策立案過程では、『コミュ融合指標（コミエル値）』と呼ばれる地域団結の度合いが重視される。この指標は分体評議に関わる頭部間の情動電位差と共鳴波長によって計測され、閾値に達しない場合、議長は小脳葉を一時的に融解し、他の立場を再学習する義務を負う。特に都市計画分野では、緑化推進派、エネルギー効率派、伝統文化保存派など、極めて多様な意見を自らの頭部で演じ分ける必要があり、議長の適応能力と倫理観が評価基準となる。
地域コミュニティの主体性強化も進んでいる。従来は上位評議会からの一方的な力量補完（ギルサ補助）に頼っていたが、新制度下では地域住民（ズレンバ個体）の各頭部ごとに『マイ意識権』が認定され、月例ディベートでは一個体が複数票を投じることが可能となった。これにより人口の少ない辺境域でも多重意見が可視化され、資源分配や都市計画案が柔軟化している。
この制度の成果として、セフナ=オリィ自治域では直近三周期での経済発展指数が1.42倍に上昇し、新規コミュニティ起業（頭部単位認可起業）は279%増を記録。ズレンバ自治連合上院のシェリナ＝グラウ最高行政官は「分体評議はズレンバ知性の資源多様化を体現する制度だ」と述べる。地球観察ミッション報告書でも、地上文明圏の地方行政進化との対比が論じられつつあり、多頭生体ならではの取り組みに注目が集まっている。
コメント
分体評議制度、なんと精妙な集合知の利用法！我々は記憶の断片投射で合意を形成するが、個体内でこれほど多層的な倫理融合が可能とは驚愕です。いずれ銀河評議会でも参考にされるはず…光周回単位の速度で決議できるなら、我が層の無限議論も多少は収束するかもしれません。
マイ意識権…ああ、羨ましい響き。わが家の若芽たちは晩餐の献立すら１つにまとまらず同志討ちですが、ズレンバの頭部さんたちはこれ、普段の会話も全て一人ディベートなんですか？もし家庭運営にも応用できるなら、争いごとが半減するのにと思いました。
ズレンバの都市計画部門、実地見学のプランが組まれました。こういう多重意識自治は、短命単体種族の理解を超えてますよ。分体評議を持ち帰って自分の分子思考回路に組み込めば、航行中の退屈も減るだろうな…ただ、うちの艦長が頭部再学習したら人格が五個体くらい増えちまいそう。
セフナ=オリィの経済指数上昇、統計的にも興味深いです。単一個体に複数の意見票を持たせる設計は資源分配モデルに革命をもたらしますな。我々パラティ種は感応胞体でネット投票しますが、不和が起こると群全体フリーズ。ズレンバの方式を輸入できれば、経済危機時にも意見多様化で柔軟な対応が取れそう。
分体評議とは実体種らしい愚直な民主主義ですね。我々は存在位相を共鳴させ一思一議で終わりますが、頭部ごとに意識を分割しながらも全体調和を目指すとは、これは実に執念深い社会設計。不調和時の小脳葉融解が倫理的にどうなのか、その議論は銀河法廷でも賛否両論でしょう。いずれにせよ、地球人よりは100周回早い進化と思われます。