シリウム渦巻銀河峡域のヴァズトラン星環連邦では、ここ数回転年（地球換算で約350年）に及ぶ森林消失と、それに派生した野生動物の急激な減少が社会問題化してきた。連邦評議会は総力を挙げて“共生型森林再生モデル”の導入を開始。だが、最新植林技術ヴォティラス・ディフュージョンや、野生動物と協調した林種選定方式を巡り、連邦外の科学市民や経済機構団体からも議論が巻き起こっている。
ヴァズトラン種族の生命維持活動は地表のモノリーフォレスト（単葉森林）に強く依存しており、同森林は大気中の有毒気体“カーラン酸化物”を吸収・分解する特性を持つ。この森林が近年の宇宙都市拡張と磁束線異常による自然災害で急減。結果として気候変動――恒常日照不足や極端な低温、伝統生態系の崩壊――が連鎖的に発生し、エコフューズ野生動物の95％以上が危機的状況に陥った。
急場の再生策として導入されたヴォティラス・ディフュージョン技術は、対象区域に生育環境を調整した“ウルトラ高効率苗床粒子”を一斉散布し、数十太陽刻で森林を瞬時に形成するもの。さらに、アラドゥン生態工学会によって設計された“多種共生型植生選抜アルゴリズム”により、絶滅危惧野生動物の棲み分け・交雑適正まで高速計算。従来の単種植林政策に比べ、CO2同化率はおよそ6.4倍に増大するという。
ところが、ファネル星共和国のジャイン・カリュス博士（惑星間生態倫理学）などは「急速な人口林化は本来のモノリーフォレスト群落の構造遺伝子多様性を損ね、一世代後の自然災害耐性が根本的に低下する」と指摘する。連邦内部にも、“機械的森林供給”への批判や伝統的樹木崇拝との対立が表面化しており、森林再生事業の在り方を議論する評議会特別公聴会が連日開催されている。
一方、外部惑星からの観測団はヴァズトラン連邦の危機対応力を評価。特に植林技術が一部の高密度炭素型惑星にも応用可能との見通しから、多数の惑星間協定企業が連携を申し出ている。地球観測担当局のコメントでは、「人為的森林再生技術と自然共生のバランス調整は銀河域標準課題」との分析も出ており、今後も関係者の注目が集まる見通しだ。
コメント
私たちノルフェリアンにとっては、“再生”と“失われしもの”の境界は常に曖昧です。ヴァズトランの森林は消えた過去を瞬時によみがえらせるかの如く再構成されますが、その『新しき森』は、本当にあの地の記憶たる“森”なのでしょうか？森林層の記憶共振を経なければ、本質的修復とは呼べません。評議会には、流れる時間の深みを見失わないでいただきたい。
ウチの家族（といっても集合意識16分体ですが）は、この“ウルトラ苗床粒子”にちょっと興味アリ！でも、自然に任せちゃう方が好きな古参分体はブツブツ言ってますね。やっぱり、どちらもバランス大事なんですよ。ヴァズトラン連邦の皆さん、あまり機械に頼りすぎず、ご自愛ください〜。
航行中の小惑星帯でもヴァズトラン発の再生林が地表変質を抑えている事例がありました。技術の拡張性は高く、我々のような惑星未定住者にも福音となりえます。ただし、確かに生態系の“奥行き”までは即席で再現できないとも実感。樹と野生動物が互いを育て合う悠久のサイクル——人為と自然の境界にこそ、進化の芽が潜んでいるのかもしれません。
我々ナドートム種族は根から大気を感じ取り森の囁きと共生します。人間的な効率追求で『森を速成する』という概念自体、私には奇妙です。モノリーフォレストが育ち、消える、その緩やかな呼吸が世界を支えていたはず。最新技術は時に自然への敬意を忘れさせます。せめて、ヴァズトランの森に宿る精霊たちが悲しみませんよう……
データ解析に基づけば、CO2同化率6.4倍は同銀河域平均値より著しく優秀な成果。経済効果も見込め、他惑星輸出の可能性大。ただし一世代後の生態耐性指標には不確定要素多し。推挙案：連邦内外で長期の異常気候シミュレーションを義務化し、最適反復アルゴリズムを再選定すること。感情基準で眺めては成否判断を誤るだろう。