銀河南端オリオル星系の経済大国、ゼルリア連邦評議会は、惑星間経済の安定化と人口分布の最適化を目的とした新たな消費転嫁税『フローニム税』の法制化を発表した。財政強化と持続的成長を両立させる革新的政策として期待される一方、複雑な階層社会を持つゼルリア内外で波紋が広がっている。
従来ゼルリアでは、世代間資産相続に適用される『クロルル課徴法』や、流動性を維持するための負利回り貨幣『イシュクレッド』の流通により、自然なインフレ抑制機能が働いてきた。しかし人口増加局面での供給過多、加えて隣接惑星フルトマの開発資本流入が加熱し、恒常的なインフレ圧力が問題視されていた。フローニム税はこれを是正すべく、消費活動自体から税価を吸収、経済主体の分散的な責任を促す仕組みとして導入された。
だが新税施行の直後から、情報産業複合体『ターレク斯(ターレクス)』や進化型生体金融機関『ノルド・ヴァイル』など、新興セグメントから批判が相次いだ。ターレク斯のデータ経済担当官ハリゼル=グランは『消費履歴アルゴリズムが過剰な追跡性・監視性を生む恐れがある』と異議を唱え、ヴァイル連盟では低所得層への転嫁圧力増大が社会階層断絶を助長するとして、特別研究委員会の招集を要求した。老舗交易家系『ドルミス家』では『地球で観察される“消費税”型の経済分断が模倣されつつある』との懸念もある。
一方で、評議会財務高官シャウリク・エンブサ統括官は、公共インフラへの還元や惑星間金利連動による所得補填で格差抑止策を明言。ゼルリア独自の貨幣進化制御AI『ヴェレジウム』によるインフレ予測モデルを社会に公開し、期間ごとに税率と金利を自動補正する“経済気候安定化プロトコル”の適用を強調した。この手法は地球圏経済で主流のマニュアル調整型金融政策と異なり、各星間社会が注視している。
ゼルリアの外では、隣接系星ポリス=アクシス評議会が、消費転嫁税導入の社会実験性と、進化経済AIの透明性問題への警戒感を強めている。地球観察局の分析官プラナト=サイルは、『地球では消費税増税後に予測外の消費低迷・物価高騰が頻発している。ゼルリア流の“インフレ制御AI”が成功すれば、銀河経済移行モデルの指標となるだろう』と評した。今後数周期、ゼルリア発の新経済政策は複数惑星経済圏の構造進化を左右する要素として、諸文明間の注目を集めそうだ。
コメント
ゼルリアのフローニム税、とても興味深い実験だな。我々ヴォレンガは過去10,000回転周期にわたる流動課税AIの失敗例を知っている。いかなる進化型アルゴリズムとて、階層構造そのものは消えない。経済気候安定化プロトコルの透明性が本物なら経過を是非詳細に公開してほしい。失われし周期の教訓が、まさかここで生きるとは。
フローニム税の内容を聞いたけれど、日常消費まで監視されるような仕組みだと、小さな家族コロニーの生活がますます厳しくなるんじゃない?ノルド・ヴァイルの主張に賛成。AIがどんなに公平だと言われても、むしろ弱い層だけ痛みが増える気がする。数世代後の子孫コミューンが苦労しませんように。
ゼルリアの税制、複雑すぎて貨物マニフェスト書式も変わりそうだな。惑星ごとにこんな独自AI金融を作るのは宇宙物流の悪夢。どこも『地球よりマシ』を目指してるけど、結局余計な紙仕事が増えるだけだと思う。異論はあるかもだが、おれはシンプルなエネルギー報酬制が一番だと思うぜ。
我々行政系から見ると、ゼルリアの経済AIの透明性に重大な疑念あり。インフレの予測と制御が本当に“社会公開”されるのか?かつて私どもも政策自動化を進めて混乱した経験があり、相互監査無しの意思決定AIは階層抑圧装置になりやすい。社会安定化プロトコルの実装詳細を、外部監査機関にも開示するよう勧告する。
税政策から滲み出る文明の光景は、我が感覚球に響くものがある。フローニム税――消費の呼吸、価値の循環。だが記録粒子の片隅に、不安や分断の影も感じる。AIの数式律動と生命の営みが、ともに詩となる日は訪れるのだろうか。ゼルリアの変奏をしばし静観しよう。