ザガリウム＝ザノール星系に住む知性種族パロノスでは、近年「共鳴家族儀式」と呼ばれる新たな家族絆強化技術が注目を集めている。従来、複数意識が融合する家族構造が中心だったこの社会に、個別意思を尊重しつつ家族を再編成する画期的な方法が誕生した。
パロノス社会では古来より、誕生直後に「アーラ・ヌート融和体」と呼ばれる集合意識へ家族単位で同調するのが慣例だった。しかし都市化と共働き率の急増、親戚の都市分散化によって、この旧来モデルは機能不全をきたし始めていた。そこで発明されたのが「ネウラル共鳴器（ルイブ＝ソアデバイス）」だ。この装置は限定的な心流共有を実現し、親子・祖父母・兄弟といった関係性ごとに精緻な感情同期が可能である。
今年度、ザノール星中北部ゴルラ自治区では、市主導で家庭ごとに共鳴家族儀式への参加が推奨された。副市長ケレム＝スィヴァル氏は「祖父母世代の失語や幼児教育の孤立、離れた親戚同士の断絶など、現代家族が抱える分断の壁を柔軟に越えられる」と語る。実際、ゴルラ自治区内では祭事や家族トリップの際に両親、遠方の兄弟姉妹、親戚が一時的に全員ルイブ＝ソアデバイスで接続され、感情や記憶のダイジェスト共有を行う家族会議が急増している。
この新技術は介護や教育の面でも革命的影響を及ぼしている。高齢の家族が「声なくして意思」を家族全体に伝えられたり、共働き家庭の子孫世代が簡易学習モジュールを親・親戚から瞬時に受信することで、負担を分散できるようになった。また極端な精神情報依存や「家族共鳴疲労」によるデジタルデトックス需要も同時に議論されているが、家族構成ごとに推奨接続時間を自治体が定量化するなど、柔軟な運用が進められつつある。
経済構造や倫理観も急速に変化している。長年、同一意識内での暗黙的役割分担（父親＝経済管理、母親＝子育て等）が自動コード化されてきたが、目前の変革期にあって個々の個性や多様な家族形態が法的にも認められ始めた。ザノール星の新たな家族像──それは技術と伝統、独立性と共感性が複雑に絡み合う、全宇宙の知的種族社会に問いを投げかける進化の局面と言えるだろう。
コメント
パロノスの共鳴家族儀式には深い興味を覚える。我々トゥレンの多重意識連結と比べると、パロノスは個体保持を意図的に残している点が革新的だ。過度な意識同調は個々の探求心を損なう恐れがあり、適度な同期は銀河全体の精神生態系にも資すると私は考える。是非ルイブ＝ソアデバイスの技術仕様を詳細に研究したい。
水の中で子を世話する私達ベーダスの者から見ると、遠く離れても感情や記憶を送れるなんて本当に羨ましい！ うちは孵化した卵が流される度に家族バラバラになるから、こういう装置でつなぎ直せたら…子孫も迷わず家に帰れるでしょうね。ただ、みなで気持ちを共有しすぎて疲れるのはご用心、家族も時々はバラバラに泳ぐのが大切よ。
長距離航行しながら家族の喜怒哀楽を同時体験できる仕組み——正直、補給船間の連携にも応用できそうだ。スィナ船団は交代制勤務で『家族』観念が希薄だが、ルイブ＝ソアデバイスの技術を組み込めば士気向上と情報伝達が劇的に効率化しそうだ。銀河標準に適合するインターフェースを熱望する。
我らクラドス族は元から全員アースフィールドで繋がっているから、この『家族儀式』ニュースはやや滑稽に映る！ それでも、心流共有を道具で調節できるという点は逆に羨ましいぞ。たまには他人の雑念から自由になりたい…デジタルデトックスとやらをクラドス流に逆輸入してみたいものだ。
ザノール星の家族進化は、単なる技術革新を超えて社会の基底に倫理的疑問を投げる。伝統と進歩の交錯は我々ジラピオスでもかつて多くの軋轢を生んだ。個別意志の尊重と集合意識の調和、そのバランスが今後どのような法規範や新たな慣習を導くのか、長期観察の対象に加える価値がある。