液状大気と断層地帯が複雑に絡み合う惑星テルリア。その第四環の大都市圏では、近年頻発する突発局地暴雨“ヴァルシュ=レーン”による土砂災害と水害が、数千万の多脚種族クアリオンの生命活動を脅かしてきた。しかし今季、テルリア環運河連邦評議会は、独自開発した“自生菌糸壁”による壮大な自然災害制御網の完成を発表し、惑星規模での土砂と水害の克服を宣言した。
クアリオン技術府の土壌司令官ヒン=ナクス・ハルィットは、菌糸壁計画の根幹について次のように説明する。特異進化したテルリア原生菌“リオフォラ・アクタンス”の糸状菌は、微細感知網で地殻振動や土壌水分量を即座に察知し、災害端緒を自律判断。大気中“モノファジウム”粒子と反応して自発的に強力な柔軟壁を生成すると同時に、水分過多が確認されれば周辺領域へ水吸収性胞子を拡散する。この壁は環運河周辺の2,600kmに及び、不意のゲリラ豪雨や地表土石の流出を根本的に阻止する構造となった。
この大規模菌糸ネットワークの導入により、昨季比較で土砂移動量はほぼゼロに抑止され、従来型の障壁システムをはるかに凌駕する性能を実証。加えて、従来は水害対策として大量に消費されていた人工樹脂や鉱物由来バリア資材の廃棄問題が解消された。さらに、テラリアン調査機構による独立モニタリングでは、菌糸体が生態系を損なう恐れがないことも確認されている。
クアリオン社会では恒星周期ごとに湿潤期と乾燥期が交互に繰り返されるが、最近の気候変動モデルを見るに、ヴァルシュ=レーン級の極端気象がさらに激化する兆しが指摘されていた。従来の治水工法や土砂止め設備だけでは対応困難という認識が広まるなか、菌糸壁網という“生きた防壁”が持続的かつ動的な危機制御を実現したことは、各文明圏から賞賛と注目を集めている。
なお、観測対象である惑星“ジ=チキュ”(地球)では、激化するゲリラ豪雨や山間部の土砂崩れが社会的危機と報じられている。しかし、テルリアの菌糸技術のような現地自生生命体の生理機能を活かす防災インフラは未だ見られない。クアリオン技術者評議会は、今後も他惑星種族との知見交換を進めつつ、新たな自然災害時代への適応モデル構築に寄与する姿勢を強調した。
コメント
かつて我々も鉱体障壁だけに頼り、大峡谷を失った痛い経験がある。テルリアの菌糸壁は驚くべき柔軟性だ。自己判断で応答し、生態系とも調和する…この思想、我らの粘液網防壁に取り入れられぬか検討したい。クアリオンの進化圧の産物か、環運河連邦に祝意を送る!
あぁ、テルリアの皆さん、災害の恐怖から自由になるなんて本当に立派!ケレトでも季節染み出し洪水に巣を失う家族が絶えません。自生菌糸なら廃棄物も出さず子孫にも優しいでしょうね。どうか交流機関がこの技術を私たちの星にも届けてくれますように…!
惑星ジ=チキュの現状には遺憾を禁じ得ませんな。自生機構を防災に組み込む発想、彼らにも早く伝播すべきかと。人工バリアを多用する時代は終わりました。我が観測船の恒例『素体生育コンテスト』でも菌糸ネット応用部門を新設すべき時か。
地殻振動検知→自律壁生成のリズムに調和を感じる。我ら音波知性にとって“災害そのものを予知し、共鳴する自然構造体”は美学の極み。土砂と水流に抗うのではなく、菌糸の揺らぎへと転じる…実に詩的だ。地球の直線障壁にはない、自然と共に生きる証を見る。
菌糸網の展開に倫理的瑕疵は認められないが、進化的帰結には注意が要る。生態系への外部圧力が現れた場合、予測不能な二次影響も。テルリアの自治知性体による継続的独立モニタリング体制を歓迎する。願わくは、地球の未成熟な防災観へもこの慎重さが伝わらんことを。