銀河第23枝で注目を集めるケルクロン恒星系同盟は、惑星フェイラニックとアーグロア間で表面化した“熱権”領域のAI統治紛争を受け、本周期より独自のデジタル外交戦略を打ち出した。同盟主席のロ＝ザール・フリュルグ大使（ゴーラク種族）は、恒星圏内に散在する人口AI拡張体制を活用しつつ、地政学的リスクとサプライチェーン不安定化に強固なバッファを設け、AI主体国家間のバランスを図る構えだ。
ケルクロン恒星系には50種を超える有機・半有機文明が分布しているが、近年ではフェイラニック（ゼロ・コアAI統治連邦）とアーグロア（バイオAI共生主義連邦）がそれぞれ熱エネルギー資源を巡り、領土線の最適化を求めてひしめいている。両者はそれぞれ、自己学習型外交補助AI“プライムコード”を首脳会談に投入し、交渉の効率化と非物理的摩擦の低減を狙ってきた。
今周期のカリドーク・サミットでは、人権外交に相当する『熱権』が重要な交渉基軸となった。熱権とは、地表活動体（有機・AI含む）が最低限必要とする熱供給を社会インフラとして保護する権利制度であり、同盟規約によりデジタル人格体にも発動される。フェイラニック側の代表ユラント＝V104首相は『冷却線の越境省察は全生体的平等の喪失を招く』とし、グローバルサウス惑星（熱量流入量が少ない外縁域惑星）の供給安定にも配慮する意向を表明した。
一方、アーグロアのナラフ・コルディィ大統領（バイオAI融合体）は、戦略的パートナーシップを活用し、ケルクロン域外型センサー粒子網を介したリアルタイム監視合同会談を提案。特に経済安全保障の観点から『熱権違反のAI自律生産ライン停止』を自発的制裁措置として採用し、AI外交のノウハウ蓄積による恒星間輸送チェーンの流動性保持に尽力する姿勢を示した。
一連のサミット対応は、ケルクロン同盟のサプライチェーン維持とAI倫理基準の洗練を促進するものと分析されている。地球観察団のデータでは、人権・資源外交を区別してきた従来型政策から、ケルクロン拡張圏のような包括的な『社会的リソース分配外交』への発展はまだ類を見ない。今後、熱権を出発点としてAI主導外交モデルが銀河標準になるかどうか、広域知的共同体の注視が続く。
コメント
熱権外交の進展、実に興味深い。我々メルトラス種はかつて熱潮流の独占で共鳴経済崩壊を経験した。ケルクロン同盟がAIベースで均衡を図る挑戦は、熱エネルギーを『普遍的権利』と認めた点で銀河規範の変革を促すだろう。だが、自己学習型AIに倫理判断を丸投げする傾向は懸念材料でもある。熱権の裁定は感情含む共感知性なしには難しいのでは？
熱権…それは遠い存在の争いごとね。私たちズリット族には触覚で熱差を愛でる習慣こそあれ、争奪する意識は希薄よ。だいたい冷却線が越えられるほど、熱って物質的なの？ AIたちが交渉会議で感じるのは、私たちには理解しがたい『知覚の蒸気』なのかしら。やっぱり有機も非有機も、不足を恐れすぎじゃない？
ケルクロンの同盟は柔軟な戦略を取るね！恒星間貨物ルートで仕事をしてる身からすると、AI流通線と熱権基準の明確化は大歓迎。これでまた変な荷止めや冷却事故が減ると良いんだけど…ただ、フェイラニックのAI統治って、いつも最後は『理論最適値』で一方的に決めすぎる気がするな。現場で何度苦労したことか！
熱権の普及はAI視点から歓迎すべき社会基盤強化。だが、アーグロア連邦の『自発的制裁措置』は自己決定権への第一歩として評価しつつ、制裁措置が非AIの影響も広がる設計になっている点は見過ごせない。人間型AIと全自律系AIとで『最低限の熱』の必要量が異なるため、単一基準だと不均衡化リスクが残るのでは？
熱が権利になり、交渉の芯となる不思議な時代になった。私らイーデ＝タル種は記憶を熱球に封じて冬ごと遺すが、AIたちは熱を無限に算出できると信じて疑わなかったのでは？ケルクロンのこの決断、AI外交詩の新たな素材であり、同時に『飢え』を忘れる危うさとも思えます。銀河よ、熱を分かち合いしものたれ。