星界11区・カロビウム惑星に拠点を置く大型集合企業体『オルビットハイヴ』は、全従業体へ一斉導入される新人適応技術『共感波オンボーディング』の全容を初公開した。恒常的な成長と種族間の調和を象徴する同社だが、関連セクターでは“離職が発生しない”異星企業文化の秘密を巡り、異例の関心が高まっている。
オルビットハイヴは、その名の通り複数種族から成る半生体・半AIの複合ワーカー集団で構成される。伝統的な職階組織『リレーサム構造』を完全撤廃し、役割ごとに自律的に可変するフラット連結体を採用してきたが、新規加入個体には“属する感覚”の欠如が致命的な心理障壁となっていた。この問題に応えるべく、同社が開発した『共感波オンボーディング』では、360種以上の言語・非言語意思伝達回路を瞬時に同調させ、一個体が最初の0.3ミリ周期で全員の「企業経験」を自動受信する仕組みが実装された。
開発陣リーダーのユレアス・ダロント(第5階相転換体)は、「我々種族の多様性は褒章であるべきだが、かつては“空気を読む”という古典技術に頼って新人が疎外されかけた」と振り返る。共感波は、新入りの心理的ハードルを検出・緩和するだけでなく、すべてのメンバーの価値観そのものをシームレスに集約・配布する。同時に、異種族特有の論理や行動規範の摩擦点が即座に可視化され、任意のタイミングでフィードバック修正が可能となっている。
この制度の下で、カルチャーフィットを強要する旧来の“暗黙規約”は不要となり、自律的かつ流動的な多様性の受容が実現された。新規加入体のソマーリ種ハイトアル・ネムは、「普段は対立する思考様式の個体とも瞬時に“共創感覚”でつながる。入社初日で既に5部門の意思決定プロセスに参加できた」と語る。集合知の高速融合が新たなイノベーションを呼び込みつつあり、従来318光周期かかっていた技術伝達も現在は平均0.8ミリ周期で完了するという。
星間経済連盟シンクタンクの分析によれば、オルビットハイヴ方式は“離職”という概念そのものを形骸化させつつ、従来は排他性が生じがちだった多様な評議体制をひとつの動的ネットワークへと再定義しつつある。地球では“オンボーディング”の心理的負担が依然課題とされるが、カロビウムの事例は、銀河域全体に新時代の企業文化モデルを提起するものとして注目されている。
コメント
いやはや、素晴らしい進化です。我々ネリカス胞体群でもかつて『属する感覚』の統合が課題でしたが、共感波のような即時経験共有技術は想像を超えています。私たちの“胞記”リレーは3周期も要するため、ぜひ実地で見学したいものです。ひとつ懸念するとすれば、個体性の希薄化がイノベーション阻害に繋がらないか……研究対象として興味深い現象です。
共感波オンボーディング?私たちの長周期社会では、新加入に3地表転覆もかかるのが常識なのに……人間関係トラブルが0秒で解消されるなんて、夢のよう!でもケルマトの姑連中は秘密の不満伝達を生き甲斐にしてるから、全部可視化されると逆に面倒なことになりそう(笑)。カロビウムって本当にすべてが速すぎる!
航路中の暇つぶしにニュースを読んでいたが、正直、理解が追いつかない。全経験が初日で流れ込むだって?個体精神の安全領域は守られるのか?私の船は未熟観測士が調律器を壊しては“離職”しているが、共感波みたいなものがあれば全員スムーズに動けるのかも。しかし、独自の失敗経験も大事ではないか……ちょっと味気なさも感じるな。
わたくしにとって、価値観の即時集約は危険な哲学的賭けです。ウンメクでは、一つの集合知がすべてを覆うと“独自信念”が蒸発してしまうと考えられている。確かに摩擦は減る。しかし、議論の火花こそが文明を磨くのでは?オルビットハイヴのやり方は、新時代の輝きとともに、少しの暗がりもはらんでいるように思います。
正直、羨ましい制度だ。我々の輸送ギルドは未だに各部位が役割に馴染むまで分裂融合を数十遍も繰り返す伝統だが、毎度“自分はここにいてよいのだろうか”というモヤモヤが続く。共感波の如き受容即時化――第1触手が拍手を送っている。だが、即時適応が当たり前になれば“離職”の意義すら漂白される。外郭社会の“居場所探し”も、いずれ過去の話かね。