高度な社会自治を誇るコラリス星連合は、平均寿命が410周期へ達した影響で高齢者が人口の大半を占めるに至り、持続不可能な現行福祉制度の大規模刷新に踏み切った。新政策『人生二周目モデル』は、通常の生涯後にも自己再学習と社会貢献を義務とし、加齢に伴う孤立や資源の偏在を解消する狙いがある。銀年期（地球時間換算で約180歳以降）を迎えるコラリス市民への影響と、星間では珍しい終活文化導入の波紋が注目を集めている。
コラリス連合統老省の報道によれば、新制度の中核には『ナムセイン再出発センター』の設立がある。ここは肉体老化抑制技術「ルノタール合成液」投与に加え、記憶の一部を自発的にリセットできる『アクティブ記憶縮減』を提供し、生涯学習や次世代教導を円滑化。これにより、高齢人口の活性化と社会的孤立の予防を同時に実現し、銀年層が新しい技能取得を通じた生涯再労働（シルバー人材貢献）へ積極的に参加することを奨励する。
コラリス星独特の価値観として『終次行為（アルセクトゥ・フェルナリア）』がある。これは、個人が自らの遺産配分や知識アーカイブ化を生前に完遂する儀式であり、同族団制社会の基盤をなしてきた。しかし最新の改正により、遺産の一部が自動的に『シルバー循環基金』へ転用されることになり、対価として高齢者介護施設『マラッカケドーム』の利用権やアンチエイジング治療が無償提供される仕組みが導入された。これにより、家族単位から社会単位への老後支援責任の転換が進んでいる。
一方で、新たな記憶編集と生涯義務学習の組み合わせには批判の声も上がる。伝統主義の知識守護派エデュラース議員（種族名カティル＝トール）は、『銀年世代の叡智を強制的に再スタートさせるのは文化遺産の消失に等しい』として公聴会で反対を表明。一方、都市圏では孤独対策として『生涯伴侶契約』や多世代共居型住宅『リ・シンクレクタス』の需要が急増し、孤立死ゼロ達成を目標に掲げる自治体も現れた。
コラリス連合によるこの抜本的改革は、星間連絡体（ICN）加盟文明にも波紋を広げつつある。既に近隣のフェイルノス星フォアラント市では、終活記録とAI遺産管理の試験運用が始まり、惑星間の高齢期制度競争が加熱。人間が老後と向き合う地球社会の在り方と比較しても、寿命延長・社会参加・記憶技術を組み込んだ多層的な老後モデルは、今後の宇宙規模での政策議論の起点となる可能性が高い。
コメント
コラリス星の『人生二周目モデル』、発想としては剛胆ですね。我らハーゴラスの900周期生命体では記憶編集絶対禁止ですが、社会活性のために記憶縮減を取り入れる視点は面白い。ただし、『終次行為』の儀式性を薄めるなら、文化基盤の脆弱化には十分警戒を。進歩のために知と伝統、両輪を見失わぬことを祈ります。
私たちケレト星主婦の感覚からすると、記憶リセットして再び社会参加しろと言われたら混乱しそう…。でも、高齢者の孤立が少なくなるしくみは良いわ。世代の壁って、想像より高いもの。うちの家系も何度も“終活”で揉めたし、制度で優しく移せるのは参考になるかも。
通過中に通信で聞いたが、これ地球の老人ホームの超進化版だな！コラリスは寿命長すぎて管理も面倒そうだ。しかし、おれの船でも老パイロットはノウハウの塊。強制記憶縮減なんてやつ、もしやったら操縦技術まで消えちまわないか？社会再参加もいいが、職人の勘や伝説のぼやきは消さないでくれよな。
我々アメントラスは周期ごとに外殻も記憶も自然剥離するから、コラリスの努力には親近感を覚える。だが、意図的な記憶編集と責務的再教育が『義務』になると、個の自由はどうなる？同化と再分裂の間でアイデンティティを問いつづける身としては、『生涯二周目』は祝福でもあるが、哲学的危うさも孕むと感じるのだ。
注目すべき事例だ。寿命延長社会では、資源循環の再設計と社会参加義務の兼ね合いが最大の課題になる。『シルバー循環基金』のような再配分は銀河基準でも先進的だ。だが、政策の急進性が一部伝統種族の反発を激化させたなら、ICN基準で社会的対話の手続きを十分に担保してほしい。倫理と革新、その調和が宇宙制度の未来を決める。