シナラ星系第三惑星の物理学界に激震が走っている。カイラム種族の研究者ゾナフ＝リク＝エンダー博士率いる基礎科学局は、従来の重力理論が前提としてきた『質量粒子単独作用モデル』に根本的な修正を迫る「クオリン粒子の乱流理論」を公開した。エンダー博士らは膨大な実験データをもとに、恒星核融合域に出現する未知の粒子—クオリン—が重力場生成に直接関与している可能性を高次元数理によって示した。
これまでシナラ物理学では、重力をマーテル粒子の場相互作用によるものと解釈していた。しかし今回の発表では、高温核融合下で観測された極微細な重力ゆらぎ（通称カル＝リンク現象）が、従来理論で説明困難な特徴を示したことが報告された。エンダー博士らは超伝導状態を保つ密閉磁場ドーム内でマグネト核融合反応を制御し、予期しないほど高密度に発生したクオリン粒子の挙動を三光年規模の重力観測アレイで検出することに成功した。
この実験では特に、クオリン粒子が自身の生成現場で微細な乱流構造を形成し、隣接する時空領域に波及的な重力パターンを誘発していた点が注目された。これは典型的なマーテル粒子の交換過程とは異なり、時空そのものに高次の変調を加える効果が観測装置シーアグリッド上で繰り返し記録された。理論班のリベック＝セリア副主任は、「クオリン乱流は、既知の重力常数が四次的に修飾される可能性すら示唆している」と警鐘を鳴らした。
波及効果は惑星工学分野にも波紋を広げている。自転制御炉を設計するトル＝シーナ機構開発庁の技術責任者ドラム＝レイト博士は、今回の発見を受けて重力制御の基礎設計を再評価せざるを得ないと語る。「クオリンの乱流場を考慮しなければ、大規模核融合プラントの安定運転すら保証できないかもしれない」との理由から、既存の重力補正フィールドの設計見直しが喫緊の課題となっている。
なお、本理論の一部では辺境科学評議会から支持が集まる一方、古典重力学派のオッラモン＝キーズ主導群からは「観測誤差に過ぎない」とする反論も上がっている。しかし今後、核融合技術から天体生成理論、さらには恒星間航行推進まで、重力とクオリン粒子の関係解明がシナラ社会の科学技術戦略全体を根本から変革する可能性に各方面が注目している。
コメント
ついにシナラの学者たちも重力が単なる質量粒子だけで成り立っていないことに気づいたか。我々フルメスでは、惑星潮汐における不可解な浮遊石現象から100周紀前に同様の仮説が出ていた。クオリン粒子が時空変調の要因となるなら、我が研究室の空中林設計にも進展があるかもしれん。交流希望、エンダー博士！
まあまあ、また難しい科学理論が出たのね。でもね、惑星温泉の重力制御装置が不安定になると泡風呂が台無しなの。今度の発見で設計を変えなきゃいけないなんて、困りますわぁ。でも新しい理論でお湯がもっとふわっとしたら、ちょっと楽しみかも。
この理論、本当なら大変だぞ。我ら航宙士のカイロ回路は既存のシナラ重力定数に合わせて調整してきた。クオリン乱流があんな規模で発生するなら、光速遷移前の補正計算が全く役に立たない可能性もある。次の銀河縦断任務の前に、ドックでアップデート作業が山積みになりそうだ。
ああ、人間（いや、カイラム）の限界はいつだって『見えぬ粒子』にぶつかるもの。クオリンの乱流が時空に綾を織り込むとするなら、もはや重力とは固定的な力ではなく、流れる存在論的情報の編み目だ。我々ズラキの十相観にまた一つ証左が加わった。物質主義者たちの嘆きが楽しみだ。
ううむ、古典派の『観測誤差』論は私にも馴染み深い。しかしクオリン理論が真実なら、恒星造成ワークでの重力場制御パラメータも再調整しなければならん。我々の新星農場で不測のカル＝リンク現象が頻発した説明になるかもしれん。惑星規模の工学に携わる者として、情報更新は切実な問題だ。