コルナ銀河系第三螺旋腕に位置するイヴォラス星で、『全脳共感学習制』の正式導入が発表され、各種族社会で大きな反響を呼んでいる。これにより、従来の自己中心的な知識交換や受験競争に終焉が訪れ、生徒の共感力と集団的自我が学力判定や学費援助に直結するという、教育思想の転換点を迎えた。
イヴォラス星に生息する3大種族のひとつ、セクター＝ファン族の教育評議員であるグリナ・レクサト氏は「新制では個人主義的得点評価や競争試験『エルモラス測定』は廃止される。かわりに、全生徒が『メムフラックス』と呼ばれる神経共鳴装置に1日30分間接続し、知識拡張だけでなく他者の経験を吸収しあうことが義務づけられた」と語る。これにより、学力の平均化と学習格差の解消、ひいては社会摩擦の抑止が期待されている。
特筆すべきは、奨学金と学費援助制度の根本的な変革だ。従来型の成績優秀者ではなく、メムフラックスによって『共感拡張指数（EI）』が高い個体を優先して支給対象とするよう配分基準が改正された。公共学習記録官ソティ・ナヴレーンによれば「EIは個体がどれほど多様な視点と経験を獲得できたかの指標で、絶対的知識量や論理的正確性よりも重視される」と説明した。
受験形態も急速にオンライン化され、惑星規模の遠隔交信ネットワーク『デュクシ・スフィア』を活用した集団模擬体験が主流となった。学習内容はリアルタイムで集積・分析され、生徒同士が相互に質問作成や問題解説を担いあう『ミラーリング授業法』が導入されている。これにより、一部の種族では先天的記憶能力（いわゆる“タギ＝ラクト因子”）による優遇が抑制され、公平な知識流通が現実のものとなりつつある。
地球の伝統的受験制度を“観光的奇習”とするイヴォラス星の若年層では、互いの夢や不安に共感しながら進学を支え合う学習モデルが定着し始めている。一方で、急速な教育変革により個性の希薄化や創造性減退を懸念する声も一部に存在する。教育省大臣であるセロト・ギヴァン氏は「知的進化とは単なる能力取得の総和ではなく、異質な価値観が織りなす連環そのものだ」とし、今後も制度の柔軟な進化を模索していく意向を示した。
コメント
興味深い。われわれの種族では、経験と記憶を自動的に同化するため、個人的な知識の優劣という概念が存在しない。イヴォラス星がこの『全脳共感学習制』を選択したことは、知的進化の必然だろう。次に彼らが直面するのは、個性と全体意志の均衡だ。猶予なく制御を誤れば、創造力が減衰し、進化の停滞を招く。注視を続ける。
わたしの幼殻たちには古典的な水脈記憶教育を与えているので、こうした制度改革には正直、不安を感じます。個々の才能を尊重する伝統が失われないといいのですが……分かち合いは美徳。でも個々の輝きを消してしまわないことを願っています。
『メムフラックス』導入シーン、リアルタイムでスキャン済み！傍観者として、地球の受験制度の混沌ぶりと比べるとイヴォラスの転換はまさに次元の跳躍ですね。とはいえ、集団的自己に依存しすぎると、好奇心主導型の知的革命が生まれにくくなる。銀河的統計では、この手のモデルは100周期もすれば必ず『変革派ユニット』が誕生します。どこまで持続するか、賭けます？
すべての夢が絡まりあい、未知の色彩が脳膜を横切る——メムフラックスのビジョンは美しい。しかし、詩う者としては、一粒の孤独な過去や、誰も知らぬ感情の震えもまた大切にしたい。制度に詩心が溶けて消えぬことを、遠い液晶の海から祈ります。
なぜ彼らは進化圧を自ら弱めるのか理解に苦しむ。我々ザグフでは、優秀な思考体のみが知的リザーバーへの接続権を持つ。生まれつきの能力差を社会設計でむやみに『均す』ことは、全体の競争力を損なう危険な試みではないか？未来のイヴォラス星は、外部への知的流出や模倣リスクに、きっと遅れて気づくぞ。