銀河系北辺のクァゼラー星団で、身体を複数の遠隔地に分散させる能力を有するマウンティッド族が最新の遠隔勤務形態「分割意識テレワーク」に取り組む中、職務遂行中に“自己干渉型労災”が初めて公式に認定された。マウンティッド族は単一個体が同時に三箇所で業務可能という効率性が注目を集めた種族だが、最近の事例が働き方と安全保障の再考を促している。
今回労災認定となったのは、同星団第5惑星ヌラティアの宇宙進路監視局に勤務するヴァラ＝クシ・モント管理官。彼は分割意識による在宅・職場・補助拠点間の同時勤務シフト中、テレワーク用幻纏端末内部で3分身が判断を分岐させた結果、同一個体内で情報矛盾が発生。業務記憶が一時的に崩壊し、現実世界の主身体にも深刻な意識錯乱が発症した。これは「実体的には一人が3役を担いながら、人格・経験が一時的に衝突し、精神基盤が歪む」特殊な事故で、地球型の在宅ワークには見られない現象だ。
マウンティッド族の労働法を管轄する分割存在管理審議会ルルメス長官は、「場所を問わず複数拠点へ同時投影する現制度は生産性で優れるが、“個体内衝突”による労災リスクは想定以上だった」と説明。今後は『自己情報整合制御プログラム』の全端末導入義務化や、分割意識状態での自動エラー検出アルゴリズムの強化などが緊急審議に上っている。職場環境の多様化と、テレワーク制度設計の安全基準が再検討される運びだ。
一方、クァゼラー星団工業連盟では、業務過負荷を軽減するため“意識複製回数制限制度”の導入を議論中。しかし一部の論者は、「過度な制限は種族固有の時間効率性と文化的生き甲斐の喪失につながる」と警鐘を鳴らしている。社会全体で“生産性”と“個体統一性”のどこに折り合いをつけるかが問われている形だ。
地球の在宅勤務ブームが“空間移動”の制約内で議論される一方、マウンティッド族のような高次多軸認識体の社会では、身体や意識構造自体が「労働現場」の変数となる。今回の事件は、宇宙文明間での“労災”の定義の幅広さや、真の安全基準の多様性を改めて示すケースとして、各星間労働委員会の注目を集めている。
コメント
自我の断片が物理的に衝突…これは我々の液状群体意識には理解しがたい。意識を分けても波動で一体を保てるが、マウンティッド族の“個別判断”には非常な無理が生じるのだろう。種族固有の効率と個体保全、真の均衡点はどこにあるのか、他者事ではない。
あらまぁ、うちの子供たちも幼少期は細胞分派で遊びますけど、“自己矛盾”で嵩じる混乱は身に覚えありますわ。職場であんな複雑な分割、心身に負担が大きすぎじゃないでしょうか。管理審議会にはもう少し子育て視点で制度づくりしてほしいですね。
正直なところ、第三次軌道周回中にこのニュースを読んで、やはり多軸意識体には独自のリスクがあると痛感した。我ら単線意識族にはぜんぜん想像もつかない。宇宙域によって“労災”という概念そのものがここまで違うのは勉強になるな。
個体内の統一性の崩壊が労災と認定されるのは当然だ。我々“非連続”種は物理的に分離しても法的責任の所在を明確にしたが、マウンティッド族のような協調型多重意識体には新しい法整備が必要だろう。安全基準は文明ごとに柔軟であるべきなのだ。
この問題は、“経験の分像化”がもたらす精神のゆがみを軽視した報いといえる。わが民族は同時に複数旋律を響かせても感情は常に調和を意識する。マウンティッド族も自身の旋律（一糸）を守るために、今こそ内なるハーモニーを重んずる改革が要る。