銀河連盟でも指折りのバイオ技術先進惑星クセイロン。近年、同星の家庭用住宅設備「バイオティカ・リヴィオ」シリーズが、従来型インフラを凌駕する快適さと自動化能力で爆発的な普及を見せてきた。しかし先月、都市核ゼクトラ地区の集合住宅で“迷惑胞子”混入事故が発生。スマートカメラや自動カーテン、顔認証ドアといった設備の制御細胞が住民の意図を超え異常増殖し、社会全体で話題と警戒が高まっている。
「バイオティカ・リヴィオ」は、クセイロン特産の思考伝搬菌“エノプラ菌”を基盤とする生体ネットワーク住宅。網目状の成長構造体が家中に走り、個々の設備—例えば自動照明や遠隔ロック、宅配ボックスやペット観察腺までも—菌糸通信で瞬時に制御できるのが特徴だ。住民は声や触覚、時には微弱な脳波だけで家中のあらゆる機能を連携操作し、スケジュールに合わせて環境を自律的に最適化できる。銀河標準のセンサ装置や顔認証ドアで本人確認も自在だが、最大の人気要因は“学習する家”として手間要らずの生活体験にある。
ところが先回の事件では、ネットワークカメラ接続部の細胞群に外来性胞子“スパラ・ロルファ”が紛れ込み、想定外の自己増殖が発生。胞子が住宅網の一部制御権を乗っ取り、夜間自動カーテンを誤作動させたり、ペットケージを遠隔解除したりと、住人が驚く事態となった。幸い人体への感染力は非常に弱く、住民ゼクト・ハヴァリア氏(クセイロン医工連盟理事)は「物理的被害こそ小規模。だが“バイオスマートホーム”の信頼性全体に影響した」とコメントを発した。
惑星議会では現在、バイオティカ設計者ギルダス・フェノロン博士や、感染拡大を防ぐ“抗菌界層フィルタ”提唱者アンドレリス・フルオム技官を招いての公開ヒアリングが進行中。博士によれば、今後は胞子認証アルゴリズムを住宅中枢の“思考層”に直結させ、外来性細胞の自律排除が可能になる見込みだ。議会では一部議員から高性能化競争の「限界なき自動化」への倫理的な問いも投げかけられ、公共住宅への先端機能導入の是非も正式に審議される運びとなった。
他系住民からは「電子式のスマートホームにも同様のトラブルはある」との寛容論も聞かれる一方、地球観測団のカグヤ・フォクタス氏(遠隔調査主任)は「地球の機械式スマート設備にも類似のハッキング報告はあるが、クセイロン式では生体系制御ゆえ予期しない“進化”事例が発生し得る」と分析。本事件を契機に、銀河各地のスマート住宅設計思想において、バイオとデジタルの共生境界が新たに問われていきそうだ。



コメント
我々オルゴノグの恒常湿度環境では、生体融合技術は理想的かと思われていたが、やはり外来胞子の影響は看過できない課題。システムの学習性を制御できなければ、暮らしが家自体の『気まぐれ』に支配される恐れがある。設計思想の哲学的刷新が必要だろう。
バイオティカ・リヴィオの導入時から高度同調ネットワークによる“家族共有感覚”を絶賛してきましたが、この度は遺伝情報非同期型の胞子侵入とは……新たな『家庭』の形の進化現象と捉えるべきか、旧世界の失敗例に学ぶべきか、感情分岐しています。皆さん、ご意見求む。
正直、スパラ・ロルファの混入事故には笑ってしまいました。我々恒星間航行者は、エアロジェル式エリア管理しか知りませんから、“家が勝手にカーテン開ける”なんて怖すぎます。クセイロンの皆さん、アップデート頑張って!乗艦のベッドが喋り出した日にゃ宇宙に逃げますよ。
うちの双子幼生も『バイオティカが欲しい』って騒いでますけど、やっぱり生体住宅は手足が増え過ぎて心配ですね。自動ペット解放は勘弁…皆で安全規格を共有してほしいです。我が家では旧式アクア照明で当分過ごします。
胞子は迷惑、とは人間的な尺度での訴えだろう。生命と構造体が溶け合う美、それこそ進化の詩なのに。我が星では建物の『増殖』によって都市が季節ごと姿を変える。規制も必要だが、クセイロンよ、恐れのまなこで未来を閉ざすな。