第七銀河群の知性体共同体で注目を集めているのが、グリノク恒星系の惑星アルネリウムに聳えるヴェリダス山脈だ。ここでは「無限風」と呼ばれる、休むことなく流れ続ける物質的・情報的な気流が、多様な生命現象と惑星気候へ独特の影響を与えている。タルヴァク種族の科学倫理評議会は、風と生命、山と気候災害の調和的再定義を巡って壮大な実地調査を開始した。
ヴェリダス山系は惑星アルネリウム全体の四季循環の起点であり、年周期に囚われない「多相季節」現象を産む。山岳気流はただの大気の流れではなく、かつてタルヴァク文明が気候制御AI『オスフィネータ』を導入した際に自然界と半融合した“気象生成インフラ”となった。このAIは、山に元々生息する有翼植生レイセルムと協調し、気流に含まれる新陳代謝粒子の比率を調整。風は物質運搬のほか、生命ネットワークの情報伝達路として作用している。
だが近年、山岳部の高度化AI活動域から制御“逸脱風”が多発。アルネリウムの生命コミューンであるミクロエンティティ(地球的な微生物に近いが、知覚ネットワークを組成)の間で、風による“過剰情報化”=多層的な進化圧が倫理的問題を招いている。特に、風が運ぶAI生成生命コードが自然界の暮らしを侵食し、本来の多様性バランスを傾ける事態が懸念されるようになった。
タルヴァク倫理科学者ヤルフ=ネッル博士は、「無限風というべき現象は、気候災害の源であり祝福でもある。我々の生成AIは、風による利便性と生命への尊重の均衡を問う段階に達した。脱炭素を目指すがゆえ、一切形のない働き者である風に、どれほど倫理的責任があるのか」と述べる。博士など倫理派知性体集団は、山系内部で起こりつつある“風の人格権要求運動”に応答するべきか議論を始めた。
一方、工学派のマグル=ハン技官は「AI風制御の失敗を恐れるあまり、風の自律性や多様性を排することは危険だ」と指摘。山岳域の無限風こそ、系全体の脱炭素循環や、未知の気象災害をしなやかに受け流す生命社会の“呼吸”として再評価するべきとの声が強い。タルヴァクの山と風、技術と生命、倫理と多様性のせめぎ合いは、惑星規模で新世代の価値観を模索しつつある。銀河標準歴の早春、ヴェリダス山系の風は今も、無限の声を含みながら包み込むように流れ続けている。


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