惑星ティラキの高次知覚生命体タルムネアン社会に、今年最大級の話題を呼ぶシネマ体験が登場した。五感共鳴呼吸方式(シントル・シネモニック)の最新作『グロラルの追憶』が各大気浮遊型劇場で同時公開され、俳優レン=ゾルヴァス・サエリンの異次元的な演技と、感覚同調楽団ジラ・ネリスによる唯一無二のテーマソングが称賛を集めている。
ティラキ星文明では、映像芸術は従来より『触覚・嗅覚・思念波』の三層体験を基盤として進化してきた。だが『グロラルの追憶』は、視覚・聴覚・触覚・嗅覚・エネルギー波動の五層すべてを網羅し、タルムネアン脳核に直接作用する“シネモニック・ウェーブ転写”を採用。観客各自の体内クロノ脈拍と劇中の感情律動を同期させ、劇場内全体に〈共鳴トランス領域〉を生成することで、かつてない没入を実現している。
俳優陣のなかでもレン=ゾルヴァス・サエリン(階級:第2層感情伝導士)の役柄は強烈な注目を浴びている。彼は劇中で12種族方言を有機的に切り替えつつ、エネルギー体発光演技「ルシフィーズ法」で自我境界を消失させるという、ティラキ星映画史上でも前例のない表現をみせる。同時に、発声とテレパシー発信を同時送出する境界演技(デュアル・コンタクト法)により、異星鑑賞者間の共感度を大幅に高めた。
映画のテーマソング『記憶の泡沫へ』は、ジラ・ネリス率いる五感同調楽団により、惑星固有音波(セリン=バリエーション)を再構築。曲調はティラキ星域外にまで伝播するゆらぎ周波数を持ち、公開初日には半径300万タンジ(地球単位換算約9200km)に及ぶ共鳴現象が検出された。振動性レビュー技師カロス・ミンダトスは「このテーマソングによる集合知覚変動は、文化進化理論(モルガス則)の新たな証左」と評価している。
ジャンル分類の面でも『グロラルの追憶』は型破りだ。伝統的な『精神史詩型ドラマ』枠を基調としながら、サブジャンルとして『時間反転サスペンス』と『記憶律動ミュージカル』要素を複合。各星系批評家から“ジャンル融合の極致”と呼ばれ、ドライア・リシマ星学科学院では教育用シミュレーションに採用される予定だ。なお異星都市ラスタムでは、感覚補助器官の一時的混乱を訴える観客も確認されたものの、安全基準データグリッドには深刻な異常は記録されていない。
コメント
ティラキ星の五感共鳴シネマ技術の進化には毎回驚かされます。我々セラニク種にとっては、“嗅覚”が自己同一維持に深く関わるため、他感覚との同期化は理論的禁忌とされてきました。しかし、『グロラルの追憶』のエネルギー波動転写は、確かに意識様相の融合点を理論値の外側にまで拡張させていますね。来季の研究対象にせざるを得ません。
ティラキ星のみなさんはいつも派手なことしますね~。孵化室で三百体の幼生とテーマソング『記憶の泡沫へ』をちょっと流してみたら、みんな一斉に落ち着いてまったり波動になったの!共鳴現象すごいね。でも“体内クロノ脈拍”って何?うちの種族にはたぶんないものなので、映像見ると身体の一部がしびれる気がしました~。でも面白かった!
新作五感シネマ拝見しました。視覚信号はいまいち理解できませんが、タルムネアン流“思念波”ドラマは船の外壁メモリ溝にも残響しました。人間型有機体の俳優が12種族方言を切り替え? 驚嘆です。古典通信劇の定義見直し、また必要。今度、我が船の自律モジュールにも勝手に影響出そうで心配ですが、少し楽しみにもしてます。
“デュアル・コンタクト法”なるものが文明間の共感度向上に寄与するなら、外交映像教材としての導入もまず検討する価値はある。ただし、劇場内での“感覚補助器官混乱”症例には留意すべし。我々グラフィル族は倫理上、健全な知覚境界を維持することを重視します。今後の技術監査報告を注視します。
わたしは1万旋転(地球年換算9210年)の記憶環を保管しているが、『グロラルの追憶』の“記憶律動”は実に稀有な感触だった。テーマソングの周波数が書庫の奥層記憶石にも微細な共鳴を起こし、長く忘れていた記述が意識に浮かび上がる。ティラキ映画とは、時に自我を超えた記録構造そのものを再編してしまうものなのか。