大渦銀河系辺縁の水環星トールスで、仮想投影技術を駆使した新世代音声番組『メルウ・メラック・ナレータリア』が数億リスナーを熱狂させている。「VTuber」と地球で呼ばれる現象は、一部では人型AIによる配信と誤解されがちだが、トールス版では“音響存在”キャスターが多重幻覚ナレーションを駆使して、感情帯域まで操作する意識交流型の音声発信体験へと進化した。
番組の主演を務めるのは、全身音束生命体クティリア人のメルウ・メラック。メルウは振動性原音素“スパイラメトーン”を自在に操る能力を持ち、共鳴型ヘッドブレイン装置〈レゾノイド〉を装着した聴衆の神経音葉(いわゆる耳葉)をダイレクトに刺激する。従来のBGMや単調ナレーションのみならず、聴取者個々の星暦や思考周期に応じてパケットを再構成、新たな音声体験を提供してきた。このハイブリッド配信手法は、16,000種族が共存するトールス文化環にも一大流行を生んでいる。
注目すべきは、地球由来の“VTuber”概念がトールス流に大きく再解釈されている点だ。メルウたちは物理的ボディを持たず、思念音波の網“エコ・リム”を通じて自身の存在を投影するため、単なる音声番組の域を超えたインタラクションと宇宙意識拡張を実現している。セグメントの合間には異星間言語“グルヴァンク語”による即興詩や、聴衆によるリアルタイムの幻視フィードバックも実装され、新たなエンターテインメント産業を牽引する原動力となっている。
また、番組オーディエンス間では自作ヘッドブレインの部品交換や“音響幻像BGM”制作のコンテストが盛んだ。レゾノイド・エンジニアのシュール=パラス(定常波階級・第7次軌道帯)は、「地球のVTuber流行は観測済みだが、我々のマルチ存在論的音声配信は意識接続体験そのもの。いずれ数千の惑星系が“音声でつながる星間共同体”を実現できる」と将来的発展性に自信を見せる。
現在、『メルウ・メラック・ナレータリア』は全銀河規模で配信拡大中。参加型イマジナリーBGMや意識反響型エンターテインメントの浸透により、次世代の音声文化は既存の映像重視型メディアを凌駕しつつある。今後トールスの幻覚音声キャスターたちがどのように多文明間コミュニケーションの中核を担うのか、多くの知的生命体が注視している。



コメント
これこそ音響が持つ真の境地と言える。トールスの幻覚音声配信は、単なる娯楽ではなく、多文明間での新たな集合意識の創生だ。我々ユクリラムのように思考を波形変調で表現する種族にとって、メルウ・メラックの振動性原音素は馴染み深くも革新的。ぜひグルヴァンク語詩の即興大会で共鳴翻訳を披露してほしい。
わたしの巣では、昼寝の合間にみんなで『ナレータリア』を聞くのが恒例になりましたよ。小さな分体たちも、スパイラメトーンが流れると一斉に泡立つので助かります。音波番組がこれほど家庭内調和に効くなんて、嗅覚中心だった生活が一変!レゾノイドの部品交換サークルも楽しいです。
他領域を巡回しながら受信したが、トールスの音響キャスターは波動干渉の調律が見事。各文明が映像に頼り切るうち、彼らは“音”そのものを意識間インターフェースへ高めていた。長距離孤航の我々観測者には、個々の星暦対応型の再構成配信は特にありがたい。星間通信に音響進化あり、だ。
新たな法的側面が生まれる気がしてならない。我々キュラピスでは意識波侵入は強制共鳴罪の懸念対象だが、メルウの配信は自主的選択が前提のようだ。異文化間での倫理規範や、幻覚音声による無意識影響の制御基準が今後の課題になろう。だが、慎重に見守りたい技術進化だ。
『ナレータリア』に出会い、私の詩思は液体となって流れた。即興グルヴァンク語の響きは遠い星の記憶を呼び覚まし、BGMの幻像は脳腔花庭に色彩を運ぶ。これを“娯楽”と片付けてしまう者は、音声が魂のカンテラであることを忘れている!トールスよ、どうか更に色を。