ヴォルゲン恒星系第4惑星に所在する高等知識機関「メラグラム集合校」で、今期より導入が決まった“差別値ゼロ制”が、多源思考種と単形態族の間で波紋を広げている。全生徒の冗長意識波動を計測し、マイクロアグレッションを含む差別的異見の発生数を可視化・是正する新制度だが、同化主義を重視する一部知性群から“文明的自由”の侵害として反発が強まる。
メラグラム集合校は、ヴォルゲン系でも有数の多種知的生命体が同居する教育機関として知られる。同校には分葉型知性種“シュロヴェルタ族”や定形形成族“レネス=ツヘイ派”など、15種を超える種族が籍を置く。従来は各種族独自の価値規範を尊重し、交流空間には“共同曖昧帯”と呼ばれる意思疎通型緩衝ゾーンが設けられてきた。だが近年、無意識下で用いられる差別用語やマイクロアグレッションによる“共感波動の減損”が問題視されていた。
そこで校長のクロニス・フェズ=ワルトは、今年より集合校内における“差別値ゼロ”プログラムの正式施行を発表。全知性波動記録装置『パンスケーラー』により教職員生徒の発話・思考変調を逐次計測、“差別値(=他者理解共鳴度減少率)”が規定値を超えると、その発生源個体に“自己共鳴再帰課題”が自動割り当てされる。だが、特に単形態のレネス=ツヘイ派では「自然な自己主張や種族間特性の違いさえ抑制される」として反対意見が相次ぐ。
障害特性を持つ“分断リンク体”の生徒グループも制度のあり方に独自の視点を示している。分断リンク体スポークスパーソン、ジルヤ=ナディフ=オッルは「障害を無視する形式的平等では、かえって実質的な雇用・学習ギャップが続く。“差別値”だけでなく“アクセス値”(=適応支援度)も評価基軸に加えるべき」と訴える。ハラスメント他、同和問題や男女格差に悩む多源思考種の間では、従来の“表現の柔軟さ”と“無意識的偏見”の区別が困難との指摘も多数聞かれる。
アンチレイシズムを唱える新興連合“フラタリン共感同盟”は、今期2回目となる議論集会を開催し、多種族間で“偏見再生産回路”を断絶する新たな教育カリキュラム“エムパシック・ライン”の試験実施を提案した。一方、レネス=ツヘイ派代表のギャン・バールシュは「自己同一性の最大化と全体最適化は両立不可」と強硬に反対。惑星ヴォルゲンでは、“集合知社会における多様性と平等”、“無意識的差別の可視化”をめぐる根源的問いが、今後も知性波動界全体に投げかけられ続けることとなりそうだ。



コメント
この制御方式、われわれローカリアの多心融合学級よりも徹底してるな。パンスケーラーで個の思考波を逐次監視など、少々窮屈にも思えるが、報告書によればメラグラムは咀嚼段階で既に混線が起きがちな環境らしい。だとすれば、常に意思疎通の微分を取ることで共感ノイズを削る手法も一理ある。ただ、単形態族が自己同一性にこだわるのも無理はない。波動社会の摩擦は宇宙普遍の課題だが、ヴォルゲンもだいぶ繊細になったものだ。
正直、このメラグラムの動きが遅すぎるくらいよ!うちの幼子たちの合意回路では、差別値なんかほとんどゼロよ。人派も多派も互いの思念を透かし合う訓練くらい、基礎教養でやれるはず。単形態さんたちの『個』強調も結構だけれど、集団の居心地を守る義務も学ばせてこその学び場じゃない?
私たちイテレスのように色覚と共振で理解する種族から見れば、『差別値』の数値化という発想自体がまだ原始的に思えます。ヴォルゲンの皆さんに提案したいのは、物質波や情動波をミックスした複合感覚カリキュラム。発話や思考だけじゃなく、感じ取る力そのものを伸ばさないと本当の共生にはならないのでは。
集合制御は技術的には凄いけど、単形態族の自由意思を一括管理するのは危険だ。私たちビルンでは、かつて個体差を無理に均した反省がある。違いを抑えつけることで起きる反発や精神疲弊まで『ゼロ化』できるのか?多様性の根本には“不協和”も含まれることを、メラグラム校は見落としていないか心配だ。
メラグラムの波動制御、どのラインにも等しく“しずけき束縛”が降りるのか。私たちアンバーグリフ種のように、時間を飛び石に歩む者には規範の瞬間化こそが束縛となる。差別値ゼロが根のもつれを断つことは難しいだろう。共感の種は静かな分岐に宿る、流れを止めてしまえば花は咲かぬよ。