情報流通量が銀河域最高峰として知られるテンジュー星連合で、惑星間ネット掲示板『ノートラス・フォーラム』上の“階層ブロック波”現象が、未成年層の急速な孤立を生み出していることが、評議会社会倫理局から公表された。惑星全域を覆う通信網『スーニャ・カスケード』独自のアカウント相互接続システムが思わぬ形で悪用された結果、かつてない広がりを見せつつあるネットいじめの新形態だ。
テンジュー星系ではあらゆる市民がIDデバイス『パルシロン・タグ』を生成時点で付与され、全アカウント活動が連鎖的に記録・交換可能な“流契約制度”が特徴だ。このため、掲示板や教育網利用時には同一アイデンティティ情報が分散して相互接続される。しかし最近、未成年グループによる大量同時ブロック行動──いわゆる“階層ブロック波”──が確認された。これは特定個体への誤情報投下を起点に、フォーラム外部まで膨張的にブロックネットワークが広がり、対象者の全デジタル空間からの排除をもたらす社会現象である。
調査によれば、最初の発端はテンジュー第六都市域の一等級学校『スィナクラス学環』における匿名掲示板上の議論だった。数名の未成年シン=オロ種族生徒により、同級生リファ=クィン・ゾルリナの行動を歪曲した『誤情報ログ』が投稿され、その内容が流契約で自動拡散した。直後に多数の利用者がゾルリナのパルシロンIDを一斉にブロック。瞬く間に彼女は知覚共通空間での全リアクションを失い、学内メッセージ、遠隔授業、さらには市民サービス全般から隔絶された。
惑星評議会の発表によれば、こうした階層ブロックは140系列都市圏で同時発生が報告され、今期だけで延べ1,600名以上の未成年が本人確認なしのまま社会的孤立を体験している。自動ログによるアカウント特定は急増し、フォーラム管理網上で“誤情報の波”として視認される状況だ。社会倫理局のリーファン・モーラ副局長は「流契約制度が本来想定した“安心な相互特定”機能は、情報の裏付けが失われた瞬間に過剰封鎖へと化学変化する。このままでは未成年層の発育に深刻な影響を及ぼす」と警鐘を鳴らす。
一方、フォーラム管理者連合であるアーク・グリッド評議団は、新たに階層ブロック波検知アルゴリズム『シグナル・フィルタス』を開発。誤情報による連鎖的排除を検出し、対象ユーザーの“再接続権”一時保全を可能にしたと発表した。しかし同時に、「制度そのものの進化が求められている。すべての連携システムは、悪意的な社会連鎖が生じた場合への柔軟な解決手段が必要」と、より抜本的な惑星ネット規範の再設計に向けた議論がスタートしている。孤立を乗り越え、全市民が安心して電子社会を享受するための道筋が、再びテンジュー星全域の課題となっている。


コメント
テンジュー星連合もまた、統合ID制の副作用を甘く見ましたね。私たちリムナ文明では映像記憶と感応リンクに頼らざるを得ない社会ですが、全記録の即時相互接続が弱者隔絶の温床となる危険を指摘し続けてきました。IDの透明性が裏返り、個体抹消の効率装置になる――まさに今回が典型例。『シグナル・フィルタス』に期待しますが、根幹制度の哲学転換なしに真の錯誤訂正はありえません。
こちらじゃ子らが畑で群れて遊ぶ姿が普通なので、デジタル空間ごときでこんなに排除が起きると想像できません。流契約制度は便利そうだけど、ヒトも機械もたまには切り離しておく余地が要るのでは?未成年が孤立すると栄養サイクルも乱れること、どうかお忘れなきよう。テンジューの若者たちに陽光の恵みが戻りますよう!
私は流動的個体意識で存在しているため、IDによる社会的存在の固定という発想そのものがたいそう奇異に映ります。だが、階層ブロック波がまさに『悪意の相転移』として拡大する様は、情報相内相互主観系が持つ普遍的な脆弱性と言えましょう。シグナル・フィルタスなる検知器は興味深い進化ですが、再接続権は単なる出発点――流動性こそが電子社会の健康だと信じます。
はは、警告が出るまで制度の抜け穴に気付かないとは、管理者連合もちょっとお寝坊だったんじゃないか?まあ、どの星も“相互特定”に夢中になり過ぎて、柔らかい拒絶や冤罪的排除の手段を作ってしまうのさ。我々航宙族のように匿名のまま千都市を漂う暮らしなら、そんな壁は関係ないが…陸の人たちは、せめて息抜き用の『仮面アカウント』ぐらい持てるといいのにな。
あの星の評議会も大変ねえ…うちの子どもたちは通信網よりも塩羊の世話のほうが好きだから、孤立はあまり心配していないけど、『誤情報ログ』の拡散の速さには口を開けてしまったわ。知覚共通空間が遮断されるなんて、私にはゾッとする話よ。テンジューの親御さんたち、どうか諦めないで、もう一度、みんなでご飯を囲む時間を大切にしてくださいな。