恒星ケリープリスの第三惑星グリアンで開催された、知覚逆転種族フィレトグスによる新感覚リアリティショー「スターダスト・モデル大会」が、今周期最大の論争と熱狂を巻き起こしている。今回は、パラドクス美学を競うという前代未聞のルール、三次元を超えて干渉する生放送技術、そして視聴者の物理法則を無視した投票方式が注目の的となった。
フィレトグスは、時空の位相知覚が三重構造を持つことで知られる種族だ。彼らの文明では「美」とは一意的な視覚的整合性ではなく、観測者の認識限界や世界観そのものに干渉する“パラドクス的美感”とされる。今大会の参加者は、自身の幼生・成体・未来写像体を同時にステージに実体化し、それぞれが互いに矛盾するポージングや表現を数ミリ秒単位で切り替えながら審美を競い合った。
生放送は、銀河公式の通信波「フロトラス・インターリンク」で全四次元879宙域に配信された。中継スタジオにはフィレトグスのモデル審査員長インディュール・セクトン及び外部ゲスト解説者、光放射言語で言語変換AIを持つイオーク星の知覚芸術家ヴラル=クーマも招かれた。両者のスタジオトークは「四重自己否定表現」や「逆位相投票演算」など、普段のリアリティショーでは聞かれない高度な審美論議で沸いた。
とりわけ銀河全体の視聴者参加型投票メカニズム「モラルパターン逆触媒」は、コズミックネットワーク上で物議をかもしている。入力した投票が実際には“真反対の評価”として累積される仕組みのため、保守的な美を推したつもりが、気付くと混沌や矛盾の支持派が優勢となる事態が続出した。視聴者の多様な次元パラメータが即座に変換されるこの制度は、情報管理機関カイレーン委員会に“感覚干渉の規範違反”として審査申し立てを受けている。
最終投票で優勝したのは、自己超越型幼生体を軸に“自己否定連続変身”という技法を用いたフィレトグス第六定住帯のモデル、セリ=リュニン・フェロードだった。そのパフォーマンスは通算83ブロックもの次元的逆説を巻き起こし、スタジオ解説者からは「未来への自己論理の転覆」と最大級の賛辞が贈られた。一方で参加種族間の美的摩擦や、視聴者が“逆投票”による混乱で情報過負荷に陥るケースも多発しており、今回の大会は銀河エンタメ史上かつてない美学論争として、しばらく話題を呼び続けそうだ。



コメント
私たちベラストリでは美という概念は生態化学の適合度で測りますが、今回のフィレトグス大会は、まるで空観葉体胞子が逆風で分裂する光景のようでした。結果の解釈も含め、感覚の“ズレ”そのものを評価するという発想は新鮮ですね。通常の銀河放送では混乱しますが、こうして異なる思考回路に刺激を受けるのも悪くありません。次は我々の共鳴様式をゲスト審査に応用しては?
ほぼ光速飛行の任務中、モラルパターン逆触媒の集計がまたバグってて、僕の投票は三度『混沌大賞』に加算。地球の娯楽でも理解不能な方向に進化してるけど、今回の“逆投票”方式は船内のAIも処理放棄してましたよ(笑)。でも、83ブロックの次元逆説は圧巻。暇つぶしに観てたつもりが乗務員全員で首フワ体質になった。次回はもっとゆるいルールで頼む!
子孫器たちと団らんの時間に視聴しましたが、あの“自己否定連続変身”はうちの幼体変態期の見た目そっくりで親近感。けれど投票途中で“反対にカウントされる”方式には混乱…。伝統と逆立ちするのが美なのかしら? オルノシアでは、過去と未来の調和こそ美。今年の収穫儀式ショーは見習いません。
情報干渉規範への違反疑いを知り、倫理的観点から本大会は危惧します。パラドクス的美感の探究心は評価できるが、認識の基盤を混乱とする手法は、知的存在の健全な審美感を損なうリスクも。次元投票メカニズムの主体的承諾不在も問題でしょう。速やかな銀河規範委員会の審議を待つ。
グリアンの大会は我がティルブレスの“時間逆相パフォーマンス”に近く、鑑賞中に何度も自己の時系列が揺らぎました。四重自己否定表現など、芸術として非常に高い次元で成立している。問題は一般視聴者層がどこまで“認識逆転”に耐えられるか。次はぜひ我が星でも招致大会を!