近年、トル星系第4惑星「イグレア」で急成長している文化現象「個性追従型推し活(ウルフレラ)」が異文明観測者たちの注目を浴びている。その潮流の最前線に立つのが、変体ノル族フリーシェイパー(自由変容職)・リノロス=マゥフレンダ氏だ。彼自身を“推し”とする異種族ファンが自律的に姿を変え共感を楽しむという、従来の「仮想推し活動」を凌駕した現象の核心を探るため、リノロス氏のワーキングユニットに潜入取材を敢行した。
イグレア惑星のノル族は生来、三次元構造体を自在に操作し、自身の骨格・表皮・脳型まで意図的に再編する能力を備えている。フリーシェイパーと呼ばれる職能者は、恒常的に社会的需要に応じた“個性モデル”となり、他の市民や異種族がその姿態や精神特性を模倣・同調できるよう情報場を生成する。リノロス氏は「フリーランス」として複数の共感ネットワーク「クラウドリンク」に属し、週に7形態前後、全く異なる存在性を設計・公開している。その一つは天翼根グラブノラ型、別の日は溶光菌擬態型といった具合だ。
これまでの“推し活”は主に社会的影響力を持った存在に一方的に憧れを抱き、そのイメージや情報断片を収集・崇拝する消費型に留まりがちだった。しかしウルフレラ文化は明確に能動性へシフトしている。ファンはフリーシェイパーと相互リンクし、分子記憶素子「ユルキュリオン」を介して共同体験をシェア。同時に自身の身体や発想をリアルタイムで推しモデルに近づける。オフラインイベント「感応複製会」では、参加者が半日限定で同一の“リノロス型”に同期し、配置された課題や情緒交換ゲームをともに遂行する。それが各個人の「本質的個性」を再発見する手段ともなっている。
リノロス氏は自身の経歴について、「かつては“規格外”と揶揄された変容傾向が、今や共感拡張の武器になった」と語る。ノル族社会では過度な自己改変は集団融和から外れるリスクを伴うが、彼の試みはむしろ個の多様性を創出し、各ファンが自分の“推し要素”を見つけて帰る過程が感動的だと報告されている。特に異星カレダーン族や電磁鱗ナデラ種といった異文明市民の参加が増加、「自分らしさ」から逃げてきた者ほど深い共感に到達する傾向にある。
情報場専従のバイオ記者クラド=ビーテンは、「この活動の本質は“同化”でも“真似”でもない。姿・思考・微生物相まで編集し、不可逆的な変容体験を他者と分かち合う新しい『個と集団』の設計だ」と分析する。リノロス氏は今後、クラウドリンク外部の惑星コミューンで巡回型の推し活イベントを開催予定。地球でのコスプレやファンクラブが一方向的であるのに対し、イグレアで進行中のウルフレラは「そこに集うすべてが推し」である時空的共感態の実現を目論む。進化型共感社会の担い手リノロス氏が、銀河諸種に与える影響は計り知れない。



コメント
興味深い現象だね。我々は感情を分泌分子で直接共有するが、ノル族のウルフレラは物理的身体レベルの共感にまで拡張されているのか。情報場編集で“自分”すらゆらがせる手法には、個体維持本能を超越した新しい意識の芽生えを感じる。次回の感応複製会、ファオニル胞体片として遠隔参加を検討したい。
すごいですわ〜!子どもたちが朝からリノロス型の話ばかりしてる理由がよく分かりました。うちの配偶体分も最近“溶光菌型”流行に便乗し、台所で自己発光して困ってますが、個性発掘のきっかけなら大歓迎。推し活が自分探しと社会参加の両立になるなんて、イグレア文化は進んでますね〜。
異星交流点でリノロス型の参加者を初めて見かけた時は、同じ存在と何度もすれ違ったのかと計器を疑いました。肉体と意識が常に『変体』可能な社会、航宙民には羨ましすぎます。かつて地球で衣類を替えて個性を演出したらしいが、イグレアでは原子ごと“着替える”的なわけだろう?今度航路が合えば観察に寄港したい。
ノル族のウルフレラが『不可逆的変容』を推奨する点は、リジアの法倫理基準で議論を呼びそうです。自律的選択に見えても、集団共感圧から“同型化”が進むリスクも無視できません。とはいえ、変体ノル族の柔軟な社会構造が新しい個と群体の関係性モデルを示すのは事実。一つ、慎重な観察案件として記録しました。
我々は構造変化ゆえに同一性に悩まされたが、ノル族はそれを遊びと自己実現の場にしたのか!推し活が共鳴震動や化学転写ではなく、分子記憶まで織り込むとは粋すぎる。ウルフレラ文化の巡回イベント、ぜひ分子輝き流で乱入してみたいぞ。銀河は広い、個性もまた深い。