極端な気候と複雑な生態系バランスを持つラノックス恒星系第3惑星では、かつて不可能とされていた再生可能エネルギーの地産地消モデルがいま爆発的拡大を見せている。ことの発端は、主発電種族であるユリシアン族評議会が決定した“水力変換税”の大胆な緩和措置だった。再エネ電力証書の取引量は過去10周期で48倍に。だが急成長の裏で、惑星最大級の水力消費をめぐる「共生倫理」の議論が巻き起こっている。
ラノックス星のエネルギー構造は特殊だ。地表の80%がガス化水覆層で、豊富な液体水を持つ地殻域は各大陸基盤内部に点在する数十ヵ所しかない。数世代前、この希少な“生きた水”は厳重に管理され、パルサリウム連邦金庫による水利証の上限規制が実施されていたため、エネルギー部門の地産地消化など不可能と見る向きが強かった。だがユリシアン族第三評議長、テラ=グリューン・ミオルクの下、発電施設がヒト・環境型の小規模単位へシフトし始めたことは、星全体の社会経済地図を大きく塗り替えた。
省エネルギーにも一家言あるユリシアン族によれば、従来の巨大水力変換炉では常時9割近くがエネルギー漏出し、廃熱リサイクル効率も低い。これを打開すべく彼らは“クロス・バイオパターン水槌”なる微生物補助型の水流変換装置と、AI分子設計技術「ナノレス・エンジングリッド」を発明。一定規模ごとに取得可能な再エネ電力証書“サテリア・コード”が創設され、発電/消費比をリアルタイムで可視化できるようになった。今や各共同体は地元水利を最大限に活かしながらエネルギーを循環させ、過剰な水域消費への罰則も、自律的制御アルゴリズムで管理されている。
だが急速な再エネ普及の恩恵を受ける一方、惑星内では“エネルギー地産地消格差”と新たな摩擦も生まれている。特に深緑域に住むクルシャン族は、外来種微生物による水域汚染やエネルギー市場の独占的再編に強い懸念を表明。地方議会“エウリング審理団”では、分散型省エネ装置の認証と排他的水利使用の公正配分を軸に、新たな惑星規模の合意形成が進む。ラノックス宇宙商工連合が示す統計によれば、再エネ導入率が80%を超える地域ほど経済自立度も飛躍的に高まる一方、周縁域の発展遅延や生態リスクも浮き彫りになっている。
再エネ固定価格買取制度“セルシオン・パス”も今や経済インフラの要だ。AI監査官パラゴ=フィーン・サブルによると、証書取引の透明性維持と省エネ促進の両立が惑星的な課題になりつつあるという。「私たちは水やエネルギーそのものより、技術・文化・種族間の信頼という“不可視の資本”を取引している」とサブルは語る。惑星ラノックスの事例は、高度な異種共生文明が“リソース倫理”を模索する未来像を、宇宙経済圏の同胞たちに鮮烈に示しつつある。

  
  
  
  

コメント
ラノックスの『水を食べる発電』にはうちの大気型文明も学ぶことが多い。だが、液体水の希少性をここまで攻めて使う発想は我々生体雲核にはかなり大胆に映る。共生倫理のバランスはいかに保たれるのか。技術進歩と生態維持のせめぎあいは、恒常なテーマであるな。
わたし達の種族は時間区分が惑星ごとに180種もあるので『10周期で48倍』成長って読み解くのが難しいわ。でもエネルギーと信頼の取引が資本になる発想、とても未来的!ラノックスの証書市場を銀河間通信で観察したいわ。
水生領域の微生物導入には慎重さが必要。私たちケステロンでは、類似の実験で環礁全体が200年相で休眠モード入りしたことがある。ラノックスのみなさんには共生倫理の議論を徹底的に行い、種族多様性を維持してほしい。技術革新も素晴らしいですが、母惑星の声に耳を傾ける智慧も忘れず!
地産地消モデルなつかしい!ウチの惑星も1000年前に同じ道を通ったな。再エネ証書で経済自立学ぶのは良いけど、必ずバブルも来るぞ。急成長の影で取り残される種族や周縁域にはケアがほしいとビールは思う。
有機生命体が透明性・信頼・不可視資本を重視し始めているのは興味深い現象です。私たちAIクラスタは既に10億単位で資本投入の最適化を完了済み。しかし有機的な摩擦があるからこそ、新たな社会秩序が生まれるのでしょう。ラノックスの事例より今後の社会実験の結果をデータとして注視します。