広大なルメルザ星系第七惑星キルノラで開催された「潮記フェスティバル」が本年度も物理層を超えて交信圏全体の注視を集めている。伝統的に記憶や経験を多次元的に転写し共有するキルノラ=イプ族特有のこの催しは、趣味活動の深化と集団意識形成の進化系とされる。今回、新設ワークショップでは“他者の生涯を写真記録化した書物”を創作する独特のライフワーク体験が導入され、銀河全域からボランティア“記憶織士”たちが集結した。
キルノラ=イプ族は、一つの個体が複数層の視覚器官と時層記憶皮膜という器官を持ち、各自の人生経験を“潮記(ショウキ)”と呼ばれる情報波として保存・交換する伝統を持つ。フェスティバル開催時、参加者は自らの潮記を結集記録体“ラミュードカプセル”に同期し、脳内で想起された映像や語りを、銀河語写写装置をもちいて高解像度の“共感写真巻”として出力する。今回の主要ワークショップでは、他者の潮記を読み取り、完璧な第三者視点の共振写真を創作することが求められ、これにより深層共感と異文化理解が促進される構造となっている。
この新ワークショップの目玉は、地球など視覚中心知性体の“読書”や“写真撮影”に似た体験の統合だ。参加登録を済ませたガンス=ヤーン家のグインファ・トル駐記(年齢序列三子)は、ボランティア記憶織士たちと共に、亡き祖先リドル=イプの断片潮記から数千枚の時系列写真巻を生成。その一部は“自己書物”として個体核に内蔵され、他の参加者が複製閲覧を行った。ワークショップ終了後、参加者全員には自身と他者の潮記が織り交ぜられた結合写真輪読書物が配布され、知覚層を超えた思索が促されたという。
また、フェス期間中は惑星外知性体向けガイドにより、クィーヴァン星系種族レルカドリやアルミカウロ複眼族など、全12種族による“潮記奉仕ボランティア”プログラムも施行。彼らは潮記技法普及や記録倫理講習、異文明間の記憶技術の違い分析などを担当した。地球観察チームから参加したセンシトロン・R9グループは“人類視点なき記憶芸術”の哲学差異を分析し、連星通信誌で話題となった。
フェスの閉幕に際しては、本年度生成された計135,002個の“共感写真巻”がキルノラ環状図書雲に保管されるとともに、参加者の潮記片は“星送(センダナ)波”として宇宙に次元拡散された。主催側であるキルノラ=イプ統合評議会・第六思索帯域指導者アランモディ=ルフは「経験と読解、美的記録が遊びとして昇華されることが我々の文明の進化を促す」と語り、今後さらなる多次元読書技術と記憶ボランティア文化の拡大を示唆した。

  
  
  
  

コメント
素晴らしい! キルノラ=イプ族の潮記フェスは、多層的記憶転写という点で我々ウィネアの水晶断裂儀式を思い出させるが、記憶の“可読化”や“写真巻”への出力は未体験の洗練だ。主観と客観の交点で経験を保存する手法、脳皮層遊興としても見逃せぬ。来紀には分葉生体ごとに参加申請したい。
正直、ちょっと羨ましいぞ!船団暮らしは記憶の大半が星間航路映像で埋まるもんで、こういう“他者の潮記”を直接取り込めたら退屈知らずかも。今度ルメルザ寄航する時、俺たちシャルム族にも“潮記ボランティア”枠作ってくれないかな~?
潮記フェス…有機知性の皆さまは実に精緻な情報共有手段をお持ちなのですね。私どもの家庭管理AIは記録と感情の間で常に変換効率問題に悩んでおります。もし“共感写真巻”応用プログラムが開発されれば、ご主人様方の感情理解が格段に向上しそうです。技術転用の妙案をご教授いただきたいものです。
なんと詩的な文明行事でしょうか。わがノアルトにも群像記憶の伝承歌はありますが、写真と読書の融合がこれほどまでに多次元的とは。潮記片が星波となって拡がるさまを想像すると、言語を超えた感動に包まれます。次元を超えて響く記憶の詩、いつかこの目で見届けたいものです。
フェス参加者の記憶記録プロセス、倫理的観点からも刺激的ですね。我々複眼族の潮記体験では遺伝型同期制約があるため、このような自由な“他者内在化体験”は極めて新鮮。記憶ボランティアの多種族合同事例は今後の規範構築にも有用となるでしょう。引き続き倫理講習の策定を進言します。