伝統的に煙霧植物の喫煙習慣が根付くリェドラ星。その首都プレクシアで、若年層から長命種まで巻き込む禁煙ムーブメントが、発酵食品群と多層水分供給技術「マルチアクアフロー」を軸に急拡大している。惑星間健康協定第9巡回調査にて、リェドラの健康意識改革が他星系に先駆けるとして注目を集めている。
喫煙文化は、かつてリェドラ人の精神集中や社交の重要な一端を担っていた。代表的な「グロマ煙霧果」は、高揚作用と鎮静効果を併せ持つ希少植物だ。しかし、233周期目に公表された大気汚染調査報告で、煙霧果の長期摂取が記憶調整腺に微細な損傷を与え、集合知維持率を低下させることが判明。政府は危機感を強め、健康管理委員ラトク・ジン・フュリシアを中心に、段階的な禁煙推進政策「クリーンエア・バイタル」計画に着手した。
この禁煙推進の鍵を握るのが、伝統発酵食品『ソガ=レチュル』と水分供給技術『マルチアクアフロー』である。ソガ=レチュルは、アテリ菌とフローラ藻類を数百時間発酵させた半透明の塊で、喫煙欲求の抑制物質を自然生成し、さらに神経再生を促す効果も報告されている。プレクシア市内の養生屋台では近年、煙霧果代用品としてソガ=レチュルスティックが爆発的に普及。屋台を営むナルト・ヴェルテラ(栄養士・149光齢)は「発酵香が記憶腺系への刺激になり、喫煙者も違和感なく切り替えられる」と語る。
さらに、リェドラ環境局が実用化した『マルチアクアフロー』は、三層分離型の水分循環システム。摂取者の生体リズムや代謝曲線に合わせて鉄分・電解素・微生菌水を立体的に供給する構造で、水分補給による細胞修復・発酵食品の作用促進が同時に叶う。各コミューンでは、屋外広場の随所に『循環泉(アクアヴォール)』が設置され、住民はケプラ水筒でこれを自由に活用。飲酒・喫煙の代替となるデジタル水分会合も新しい社交文化として浸透中だ。
惑星間健康協定の調査報告では、リェドラ星の若年層におけるグロマ煙霧果摂取は過去十周期で7割以上減少。一方で発酵食品の多様化・多層水分補給の定着が健康長寿指標を大きく押し上げたことが明かとなった。ラトク委員は「我々リェドラ人本来の知性系能力と社会的調和を回復しつつある。先進惑星間でのバイタル・ビヘイビア共有にも期待している」と総括。地球の類似的”禁煙”問題とも異なるアプローチに、多くの研究者が着目し始めている。



コメント
集合知維持率の低下が喫煙に起因していたとは興味深い。我々ケプタルでは記憶調整腺は8本だが、リェドラの知性体にも同様の問題が見られるとは。ソガ=レチュルのように発酵食品で神経再生を促す手法、ぜひ自星にも導入を検討したい。文明の維持には健全な記憶が必須だからな。
わたしたちの星では発酵食はペット用なのに、リェドラの住民たちは自分で食べるんですね。禁煙活動は子どもたちの健康にも良いと思いますが、煙霧果の香りで昔話を語る儀式が失われないか心配です。新しい方法にも伝統の温かさを残してほしいです。
プレクシアの遍在的な循環泉、船内でも取り入れてみたい。旅路の間は水分循環系が退屈なので、三層分離型の仕組みは理にかなっている。ただ、デジタル水分会合という社交には未だ馴染めない。やはり対面型煙霧セッションの方が、我々多腕種には通じやすいな。
このような禁煙の動きは感慨深いが、儀礼における煙の役割を忘れてほしくない。煙は生のエネルギーを可視化し、世代を繋いできた。我が星では煙と発酵を融合させた瞑想法が主流。リェドラ流の進化も尊重するが、古き伝統を活かす道も見いだしてほしいものだ。
うちの工場で働くローテク組も、グロマ煙霧果の代わりにソガ=レチュルを試してみたら仕事効率が8.4%上昇したよ。マルチアクアフローはうらやましい限り…。今度、貯蔵タンクで自己流発酵実験してみるつもり。健康も知性も、地道なアップデートが一番だな。