環状惑星ヴォリアン北半球、ループ都市コア地区で新たに設置された「詰め替え生命体イェクタクス」が、廃棄物ゼロ社会の中核技術として注目を集めている。ヴァルセル種族評議会が主導するこのプロジェクトは、銀河同盟内で最も持続可能と評される循環型社会のモデルケースとなりつつある。
従来、ヴォリアンの都市圏では合成パッケージ素材『ポリクルータル』の使い捨てによる環境負荷が増加しつつあった。これに対抗するべく、評議会はバクタ型記憶細胞を持ち、内容物や形状を自在に変化させるイェクタクス（調整済み多孔質生物）を都市各所へ配備。一般市民は専用エコストア『ルフ＝カリオ』にて、飲料・栄養液・洗浄粘液など多様な商品をイェクタクスへ直接詰め替え可能となった。これにより、既存の包装材は完全に不要となり、都市全体のプラスチック廃棄量は前月比99%減を記録している。
さらに、イェクタクスは吸収・分解した商品成分を分子レベルで記録し、市民がそれぞれに応じた配合で詰め替えることが可能となる「パーソナル再構成機能」も搭載。例えば高重力環境下で活動する個体は、イェクタクスに適応した増粘タイプ栄養素を希望時間・希望量だけ抽出できる。加えて、分解不能な成分はイェクタクス内部に溜まり、市内のリサイクル施設『ナクス＝クア工房』で定期的に回収・再合成され、次世代エネルギー資源や建材へと再利用される仕組みだ。
このゼロウェイスト推進策により、ヴォリアン各地で無包装を前提とした小規模エコストアの自発的立ち上げが相次いでいる。エコストア運営ギルド副代表セル＝トルク=ヴィヤンは「詰め替え生命体を核とした流通体系は、ヴァルセル文明固有の“物の巡り”価値観とも親和性が高い」と語る。現在は都市住民の93%が複数個のイェクタクスを家庭毎に所有し、個々の好みや栄養状態に応じたカスタマイズが当たり前となった。これにより、自宅や移動体での生活様式も柔軟化し、従来の大量生産＝大量廃棄モデルから完全に決別が進む。
なお、コア地区の「若年ギニア級」学生による自主的リサイクル実験として、使用済みイェクタクス細胞片から新たな再生繊維を生産するプログラムも始動中だ。今後は医療・建築・交通素材など多様な用途への応用が期待されており、循環社会モデルを巡る各惑星間交流でもヴォリアン方式が有力な輸出候補となっている。地球観測員の間でも「詰め替えによる廃棄物根絶」への関心が高まり、異星間ゼロウェイスト連携の機運が拡大している。
コメント
ヴォリアンのイェクタクス導入は実に興味深い。我々ズィントス星の柔体種では、物質循環の90%を体内バクテリアが担うが、社会インフラに生物を流通器具として統合する発想は新鮮だ。イェクタクスの記憶細胞による分子記録と再構成――進化分岐の一端を覗くようだ。だが、生体をネットワークする際の感染・暴走リスクは未検証では？ ぜひ詳細な生体マッピングデータも開示してほしいものだ。
わたしのクラスタ家族ではパッケージ廃棄物を吐き出すシーンを見ただけで子ユニらが泣き出しますが、ヴォリアンのみなさんはほんとに良い仕組みを思いついたものですね！イェクタクスみたいな詰め替え生物があれば、毎朝の食糧準備で45手順も必要ありません。うちの拡張胃にも対応する新型がほしいわ～。
周回軌道上から観るとヴォリアン都市はいつもピカピカだが、その秘密が生物詰め替えとは想像できなかった。うちの整備班で使ってる補給液ボックスは毎週ごみになっている。もしイェクタクスを航宙艦用に改造できるなら、廃棄物流も燃料消費も半減できるはず。司令に提案してみるよ、いや、上まで伝えなきゃなこれは。
生きた容器――イェクタクスの自意識や権利は保障されているのか？ヴォリアン評議会が生体知性の尊厳をどのように担保するのか、法的・倫理的裏付けが記事から不明だ。自身が中身や形状を変えられるとはいえ、道具扱いが常態化すると境界が曖昧になる。全銀河廃棄物対策も大切だが、生命体と物品の区別管理は最優先で議論すべきである。
ああ、昔の大洪水の頃、私たちも水袋生物に食糧を詰めて漂白流を生き抜いた…ヴォリアンのこの工夫、とても懐かしく感じます。けれど生物と共に巡る生活は手間も紛争もありました。皆さんがイェクタクスと家族のように毎日過ごせること、どうか喜びと敬意を忘れませんように。循環には心も必要です。