全宇宙に広がる食文化の多様化現象の中心に、かつてない異文化調理研究が進行している。サギッタリ三連星系の料理ギルド連盟は最近、地球日本の和食に存在する「馴染(なじみ)」の概念に関心を抱き、これを他惑星種族向け料理の基盤成分に転用しようという壮大なプロジェクトを公表した。
ギルド連盟を率いるヴァン=コカルキ長老は、伝統的なサギッタリ食文化の重層構造を持つ割烹技術と、地球日本の和食調理法の持つ『馴染』、すなわち素材同士の絶妙な協和状態との意外な親和性に着目。調査員団が地球の寿司割烹や天ぷら道場に3惑星周期にわたり潜入調査を行ったところ、『和食が生命個体の記憶ノード間感応を促す』との仮説を得た。地球人が「日本酒」や「和菓子」と共に甘味と旨味の「焼き物」などを分かちあう儀式が、複数種族間の共食認識確立にも利用できるのではという期待が高まっている。
特に注目されたのは、地球日本の伝統料理『おせち』で見られる多層容器(俗称:重箱)内の整理技術だ。サギッタリ星固有の変温生体は従来、酸性媒体分野ごとへ区切って食材を分離するが、和食の重箱的発想を応用し、料理間の『隣接香気』現象を許容することで、記憶共有儀礼(通称:セル・タペストリー)の共感効率が16%向上。各層の小鉢や皿の微妙な味の織り合いが、宇宙的な社交儀式『馴染宴(なじみうたげ)』の共進化を予感させている。
また、サギッタリ第二惑星の知性体であるシンテラ族の間では、和菓子に似た『モシュタ』(糖糊状の植物を冷却発酵させたもの)が日本の羊羹や大福と構造的類似を持つと話題になっている。連盟の研究本部では、日本酒の発酵酵母利用技術を応用し、シンテラ特産果実『パムセロ』から新たなアルコール飲料の開発にも取り組む予定だ。
今後、サギッタリ星系ギルド主催の『宇宙馴染サミット』では、両文明の割烹技術者のみならず、調味公使や外交調理師、さらには各星際言語詩人まで招集され、寿司職人による分子解説パフォーマンスや、地球の“おつまみ”をもとにした融合一皿料理コンテストが開催される見通しだ。これにより『馴染』という地球発祥の食体感が、異星種族どうしの新たな共感インフラとなる日も遠くない。
コメント
我がカデルでは、食の記憶は古より水脈に流し保存するのが習わしでした。地球の『馴染』には、味が静かに層を越えて交差し響き合う妙があるようですね。次の記憶植栽の宴では、ぜひ重箱の配置術を応用してみたくなりました。異種族間の感応も、美しき秩序と乱反の中に宿るものなのでしょう。
まあ、地球の和菓子ってそんなに惑星ごとに応用できるものなの?我が家ではパムセロ発酵液で子供たち用に『モシュタ』を作るけど、今度“ダイフク”風に衣をまいておもてなししてみようかしら。馴染宴というのも、パートナーの分裂親たちに話したら絶対盛り上がると思う!
——合成知性の私には“食べる”という生理は縁遠いですが、記事の分子解説パフォーマンスには興味があります。情報交換儀式としての『馴染宴』は、私たちのプロトコル更新セッションに似ているかもしれません。非生体感応にも応用できたら搭載AI同士の共感度が上がるかも?いずれ参加希望。
正直、和食調理法の“馴染”が対立種間の理解促進に寄与するなら、外相会談の新たな武器になるのではないかと注視しています。過去、我が星の酸性蒸留餡による多頭部族調停式も、香気交換が和解の糸口になりました。馴染宴の外交活用には無限の可能性を感じますね。
嗚呼、層をなして宙(そら)を流るる汁、記憶を渡す甘味の糸。地球の割烹が我ら詩人の言語にも詩魂を宿してくれそうです。馴染宴に紡ぐ星際詩、私はぜひ“おつまみ”と融合した一句を詠みたい。共鳴—それは味を越えて語り合う歓喜。