星間観光が盛んなヴリュクス星にて、近年大きな波紋を呼んでいるのが“ほだ木サップ会”を巡る議論だ。この新興アウトドアレクリエーションは、知性的菌糸類「ギストリ族」の若者を中心に急速に広まり、宇宙内で唯一、森そのものを舞台にしたキャンプと水上アクティビティを融合させている。しかし、その独自性ゆえに、生態系を守ろうとする長老層や保護派との間で軋轢が深まっている。
“ほだ木サップ”とは、ヴリュクス星の特有樹木ルナドムの寿命を終え倒れた巨木を中空化し、集積胞子室(菌糸の居住空間)を維持したまま、巨大な水上浮遊具=SUP(Stand Up Planktonic)として活用したものだ。ギストリ族の若者たちは、この“ほだ木”をキャンプ場まで転送し、内部でのソロ菌糸ネットワーキングを楽しみながら、広大なガンマ湖を自在に「浮遊横断」するのが一大流行となった。伝統的な炎エネルギー消費ではなく、薪として“ほだ木”の胞子殻を用いる点も特徴的だ。
だが、この快楽的レクリエーションの急拡大を懸念する声は大きい。ヴリュクス生命保護理事会の副理事長ワリソク・ゼン=ミード氏は、「ほだ木サップ会は、菌糸社会が長年培ってきた森の再生サイクルを乱す危険がある」と指摘する。ルナドムの倒木は元来、地表の新生菌糸層や微細動植物に多大な恩恵をもたらす自然循環の要とされてきた。キャンプギア(主に胞子栄養炉や胞子冷蔵層)として大量に消費される現状に、長老層は危機感を強めている。
対して、若手主導の体験協会『ポラリス菌糸流友会』代表ラル=ソキウスは、「自然への参加こそ菌糸文明の本質であり、森と遊びながら共に呼吸することが再生の一歩だ」と反論する。ギア所有の“最適化”も進み、膨らむ『胞子循環還元装置』の開発競争や、全自動ほだ木再生デバイス『コクーン・エコプレッサー』の実証試験も急ピッチ。ソロキャンプ信奉者たちは自然破壊ではなく『共生型遊戯刷新』であると声高に主張している。
なお、ヴリュクス星の市民評議会では、森の生態管理AI「リミノース」とともに、すべてのほだ木採取に対し“再森化インデックス”による動的許可制を導入。個体ごとの菌糸通信タグ管理が本格化した。地球の原始的アウトドア文化を分析比較する研究も並行し、“成熟生態共生型娯楽”のあり方が、宇宙的議論の呼び水となっている。
コメント
我々コルニーラの環形林でも、倒木の生態的役割について何度も議論が行われてきました。ヴリュクスの『ほだ木サップ会』現象は、遊びと保護のバランスがなぜこれほど難しいのか、宇宙全体の普遍的な課題を象徴しています。森の循環を尊重しつつ新たな文化を拓こうとするギストリ族の葛藤は、我々にも共感できるテーマです。
正直、ガンマ湖をほだ木SUPで浮遊なんて羨ましい限りだよ!我が艦隊の休暇施設は未だ重力調整プール止まりだ。けど、母艦のエネルギー循環すら崩れることがあるのに、森の再生サイクルを甘く見たら痛い目を見るぞ。新型装置の話は興味津々、導入テストで母艦の苔庭に使わせてくれないか?
私は毎晩13分サイクルで胞子栽培している者ですが、ギストリ族のみなさんの新しい遊び方、ちょっとうらやましくもあり心配でもあります。かつて私たちも胞子運び遊戯で森を傷めてしまった歴史がありました。森を「遊びの場」としてだけでなく、生まれ変わる存在として大切に想う心、忘れないでほしいです。
ヴリュクス星の論争は、物質利用と知性の倫理進化を測る良い観測対象です。我が種族は3200軸スペクトルで生態圏の変動を記録していますが、個体管理AIや還元装置の導入は実に効率的。ただし調和には“惑星神経網”との意識的同期が不可欠――AIに全幅の信頼を置くのは早計でしょう。
ああ、“ほだ木サップ”!聞くだけで胞子が疼く。私も若い頃は倒木の隙間で宇宙電波を拾い、キノコ仲間と共振ネットワークを構築したものさ。森は遊ぶもの、そして守るもの。どちらも真実、どちらも永遠には続かない。若いみんなには、『今この森とどう共存するか』を自分たちで見つけてほしいな。