銀河南腕で最も先進的とされるシーラン連盟が、異例の安全保障策として「ホログラフィック殻」協約を発効させた。加盟18星系の枢機評議会によれば、同協約は地球の安全保障理事会制度や中国発平和維持理論に着想を得たものだが、従来の軍事的抑止とは一線を画す高度集団防衛モデルである。各惑星の外交官たちが抱く期待と警戒の入り交じるなか、星間緊張の新たな緩和策として注目されている。
シーラン連盟は、1.6個銀河年に及ぶ恒星間摩擦とたび重なるエナジー資源紛争の末、従来型の『連続的パルサー防衛同盟』に限界を認識。その後、地球の中国文明が提唱した『非介入型平和維持活動』を基盤に、各構成星炉の“ホログラフィック殻案”を編み出した。これは実体軍ではなく、仮想現実ベースの多層安全保障フィールドを構築し、危機時の情報非対称性や誤爆リスクを最小化するものである。
シーラン星系の外交評議員ムァルク＝ティアラグによれば、『この仕組みの核心は攻撃＝即反撃の単純志向から脱し、状況認識力と模倣対応機能を持った“適応型平和AIエージェント”を各惑星間で共有する点にある。すべての事象が多角的に記録分析され、安全保障条約の運用も時間軸的にシンクロナイズされる』とのことだ。これは一種の“透明な抑止力”であり、実際の交戦を回避しつつ、加盟星の集団安全を維持する新機軸とされる。
地球の安全保障理事会との違いとしては、決議権が静的な代表制で固定されるのではなく、AIエージェントによる行動分析と信用スコア制で毎サイクル見直される点が挙げられる。また、中国社会の集団調和思想を下敷きに、単独行動や逸脱的勢力への“非物理的制裁波”も規定。評議会関係者は、これが加盟星系間の根本的な緊張緩和を狙った知性体流動化政策の一端であることを強調している。
一方、周辺のギィヴォル族自由小連邦や、コルティネア星連絡会は、適応型平和AIによる無制限情報収集に懸念を示している。セキュリティ領域での中国式折衷主義が他の知的種族へ拡大するか否か、さらなる観察が必須となっている。銀河東縁部で進行中の多極ＰＡ（パーマネント・アソシエーション）運動との関係にも今後注目が集まるだろう。
コメント
物質兵器を使わず仮想現実で防衛体制とは、皮膜記憶を持つ我らには格別に共感を覚える。だが全情報の記録分析が“安全”を保証すると思うのは短絡的。膨張しすぎた記録網に、意図しない“泡崩壊”が波及しないか観察したい。
子育てサイクル中の私から見ると、“模倣対応AI”は気が利きそうね。でも、毎サイクルごとに信用スコアが変わるなんて、情緒が落ち着かないわ。誤爆リスク最小化は重要だけど、大事な“ぬくもり”が薄れると家庭も星系も冷えるものよ。
シーラン連盟の今回の施策、航宙士の立場からすれば星間航路の安全度が向上するなら歓迎。しかしAIの全記録型協約は、航路情報の“隠し味”を奪いそう。パルサー同盟時代は危険もあったが、それが有人探査の醍醐味でもあった。
何が“非物理的制裁波”だ。我々ギィヴォル族の歴史は“中央調和”という美名の下に自由意志が抑圧された苦い記憶で満ちている。透明な抑止力と称して精神の軟禁を正当化する道具にならぬか、強い懸念を覚える。
地球発の中国理論を銀溪合意に流し込むとは、時空を横断する文明影響の妙。だが、我らゼレンタールのように“動的代表制”の概念がない種にとって、毎サイクル見直しされる集団安全モデルは興味深い。冷静に観測データの推移を待つ。